エンドレスで続く「同じ質問」

 そこから堂々巡りと押し問答が続く。

 気が付いてはいた。この地域に入ってからずっと、車窓に黒いフィルムを貼ったセダンが私の車のあとをつけていることを。最初は白で、昼を過ぎてからは黒い車体に代わった。監視されている。目立つことはしないほうがいい。だから、町中や田園をまわりながらも、写真は車の中から撮っていた。その度に車を停めると、セダンも一定の距離を保って停まった。

「ここなら、大丈夫でしょう」

 町外れに出て、一緒だった通訳の青年が言った。そこではじめて車を降りて写真を撮った。そして、ここに連れてこられた。いま、その青年は取り調べを通訳している。

 するとそのうち、初老の警官が私のスマートフォンの中まで勝手に覗き、こう言った。

「偶然に見てしまったのだが、この地域に関する記事が添付されたメールがある。やはり、調査が目的なのだろう?」

 日本語の中に「鉛」の文字を見つけて問い詰めてきた。

「数年前に報じられたことを、いまさら蒸し返すつもりか!」

 外国人であろうと、都合の悪いことは黙らせたい。中国共産党の言論封殺の本性がそこにある。

 あとで気が付くのだが、この初老の警官もスマートフォンを持っていた。その待受画面は毛沢東の肖像だった。

「だいたい、田圃の写真を撮っているだけで、どうして土壌が汚染されていることがわかるんですか」

 私は言い返した。見ただけで土壌中の汚染実態などわかるはずもない。そのカメラも没収されていた。

「じゃあ、なんでここへ来た!?」

 中国側は執拗に同じ質問を繰り返す。繰り返しの説明は、疲労を伴う。なるほど、こうしてイライラと疲れの蓄積で、調査目的=スパイ容疑を認めさせようという魂胆か。

 取調中も開け放たれたままの扉から、入れ替わり立ち替わり室内を覗きにきた地元の人間がスマートフォンでこちらの写真を撮る。まるで動物園の猿を見るような目つきだった。不愉快だった。これが正当な手続きと言えるのか。