「もう制服から着替えたのに、まだ帰れないのは誰のせいなのか」

 午後1時過ぎに連れて来られて、ずっと同じ部屋に留め置かれたままだった。どう処遇されるのかもわからない、気の抜けない状態が続く。やがて午後の7時をまわった頃に、肥った私服の中年男性が部屋に入ってきた。緊張した空気が漂う。

「先生、まだこんなことを続けますか」

 眼鏡をかけ髪の薄くなりかけている男は、私の正面に机を挟んで座ると、そう言った。彼がこの警察でもっとも権限を持つ、署長にあたる人物だった。

「私が制服から私服に着替えて、まだ帰れないのは誰のせいだと思いますか」

 主張を曲げない私を責めた。そうやって威圧する。

「私は、人の善悪を見抜く力を持っている」

 彼はそう言って私の目を直視しながら、再び送金の事実から尋問をはじめた。だが、相手に同調して調査目的を認めようものなら、それこそ罪に問われる可能性がある。

「先生、このままいつまでも続けますか」

 では、どうしたらいいのか、こちらから訊ねた。

 すると、真っ白なA4サイズの紙とボールペンを出してきて、これから言うことを日本語で書くように指示された。とにかく「事情説明」と題された、いわば「自己批判」を書かせようとする。

 実は取調中から、この通り日本語に訳して書き写せ、と中国語の文書を示された。こんな田舎に日本語のわかる人物もいないはずと、意訳して書いて渡したが、その度に、内容が違う、これではダメだ、と突き返されていた。スマートフォンで文面を写真撮影し、それをどこかに送って確認をとっていた。