桐朋学園大学調布キャンパス1号館の室内
桐朋学園大学調布キャンパス1号館の模型

 設計時には、当時まだ珍しかったVR技術を活用して空間の連なりを検証した。言葉で伝えるのはなかなか難しい建築だが、実物を見ると、人間の頭の中だけでは考えることが難しい空間だということが分かる。

巨大ビルを“ヒール”から“ヒーロー”へ

 先のホキ美術館は「日本建築大賞」を、この桐朋学園大学調布キャンパス1号館は「日本建築学会賞作品賞」を受賞している。

 特に後者の「日本建築学会賞作品賞」は70年以上の歴史を持つ、ステイタスの高い賞だ。年に多くて3組、少ないときには受賞者ゼロもある狭き門。山梨氏はこの賞を2度受賞している。初受賞が「ソニーシティ大崎」(2011年完成、現・NBF大崎ビル)、2度目が「桐朋学園大学調布キャンパス1号館」だ。この賞を2度受賞した人はこれまで数人しかいない。

ソニーシティ大崎(現・NBF大崎ビル)(Kentin, CC BY-SA 3.0, ウィキメディア・コモンズ)

「ソニーシティ大崎」は、一見、どこにでもありそうな大規模オフィスビルに見えるが、近づくと、土っぽいルーバー(棒状の素材をすだれのように隙間を空けて並べたもの)が壁面を覆っている。バルコニーの手摺りを兼ねた陶器管ルーバーに貯留雨水を循環させて気化熱で冷却することで周辺の空気を冷やしているのだ。巨大ビルを「環境を壊すヒール(悪役)」から「周辺環境を改善するヒーロー」に変えるという、発想転換を促すプロジェクトだ。