大組織とは思えない大胆なデザインで高い評価

 日建設計社内のあるスタッフは、山梨氏がデザイン戦略をまとめる役に就いたと知ったとき、こう思ったという。「最も縛られるのが嫌いな人が、戦略を決めるリーダーに選ばれた」──。それは、山梨氏がこれまで設計してきた建築を見れば分かるだろう。

 なかでも有名なのが千葉市・土気(とけ)にある「ホキ美術館」だ(記事トップ画像)。2010年に完成した写実絵画専門の美術館である。

 羊かんのような形のギャラリーが空中に約30m張り出し、美術館の存在を強くアピールしている。張り出した部分は、床も壁も天井も、鋼板を溶接してつくった「鋼板構造」だ。船でもなければ、こんな構造は使わない。

ホキ美術館の外観。空中に張り出したギャラリーを横から見る

 中にいると揺れそうに見えるが、「チューンド・マス・ダンパー」という制振装置を入れて、先端部が揺れるのを防いでいる。実際、歩いても全く揺れない。あらゆる部位において、これまでの設計のルーティンが使えない建物だ。

ホキ美術館の展示室内

 ホキ美術館の造形を見ると芸術家気質に思えるが、一方で設計過程にコンピューターを積極的に取り入れるIT派でもある。例えばこれ。

桐朋学園大学調布キャンパス1号館

 2014年に東京都調布市に完成した「桐朋学園大学調布キャンパス1号館」だ。上下階の部屋の大きさがバラバラ、柱の立つ位置もバラバラ。それでいて、各所に自然光が入って心地いい。