ノルト・ストリーム②(建設当時の写真)

プロローグ:
欧州天然ガス価格高騰の背景

 欧州天然ガス市場では天然ガス価格が高騰しています。もちろん欧州のみならず、アジア市場でもガス価格が高騰しています。

 欧州ガス市場(オランダTTF市場)では2021年9月28日朝、ガス価格が1000m3(立法メートル/以後 「立米」 )当たり1000ドルを超え、10月先物ガス価格は1030ドルに達しました。

 史上初の千ドル超えの最高値です。

 ガス価格高騰に伴い、EU(欧州連合)の幾つかの国では、ガス価格と電力価格に対し非常事態措置導入を余儀なくされるかもしれないと報じられているほどです。

 一方、ロシアのフィンランド湾からバルト海経由ドイツの天然ガス受入基地まで全長約1220キロの天然ガス海底パイプライン「ノルト・ストリーム②」 は2021年6月4日、1本目が完工しました。

 2本目は9月6日に完工し、その4日後の10日には海底パイプラインとドイツ側陸上受入基地との接続も完了して、パイプラインはシステムとして稼働態勢が整いました。

 ただし、いつ稼働可能かは別問題です(後述)。

 筆者は今年9月10日にJBpressで発表した「実は蜜月の米国とロシア、エネルギー協力関係が深化」の中で、「今回のノルト・ストリーム②完工に対しては、反露感情の強い欧米マスコミや、日本の反露を旨とする学者やジャーナリストからの批判・非難がメディアに登場することが予見されます」と書きました。

 予想通り、欧州における天然ガス価格高騰の原因をロシアに責任転化する論調も出現しました。

 結論から先に書きます。欧州ガス価格高騰の原因・背景はすべて経済的要因であり、ここには政治的要素は存在しません。

 本稿では欧州ガス価格高騰の背景と要因を考察することにより、ロシア悪玉論のような説は成立しないことを検証したいと思います。