ゲノム編集技術を利用して開発された「可食部増量マダイ」。(リージョナルフィッシュ社プレスリリースより)

(佐々 義子:NPO法人 くらしとバイオプラザ21 常務理事)

 2021年9月17日、リージョナルフィッシュ社(京都府京都市)が、ゲノム編集技術を応用した肉厚のタイの届出が厚生労働省と農林水産省に受理されたと報告した。厚生労働省は6月25日に、ゲノム編集を応用した魚の考え方を発表している*1。肉厚タイは国の手続きを経て登場した、世界初のゲノム編集動物食品の誕生となる。

 リージョナルフィッシュ社は、このタイを研究開発した木下政人氏(京都大学准教授)と家戸敬太郎氏(近畿大学教授)、梅川忠典氏の3名が2019年4月に創業した。代表取締役社長は梅川氏が務める。ゲノム編集技術をキーに、世界の食料問題解決と日本の漁業の活性化を目指している。

肉厚タイの誕生

 肉厚タイは、筋肉の発達を抑制する遺伝子をゲノム編集技術によって働かなくすることでつくられた。例えば、欧州で飼育されている筋肉質の肉牛の遺伝子を調べると、筋肉の発達を抑制する遺伝子が働かなくなっていることが分かっていた。そこで、養殖しているタイの筋肉の発達を抑制する遺伝子を、ゲノム編集技術で機能しないようにして誕生したのが肉厚タイである。

 ゲノム編集技術とは、DNA配列の狙った位置を切断する技術である。生物は生来、傷ついた遺伝子を修復する性質が備わっているので、ゲノム編集技術を使って品種改良をするときには、狙った配列が見つかるたびに、繰り返し切られ続けた後に起こる「修復ミス」を利用する。今回はタイの筋肉の発達を抑制する遺伝子が切られた後、元通りに修復されず、不活化したことになる。

 養殖タイと比して、肉厚タイの肉の量は平均1.2倍(最大1.8倍)になった。飼料もこれまでの80%になり、極めて効率的な食糧増産が実現した。

肉厚タイをめぐるネットワーク形成

 ゲノム編集技術は、作物や家畜だけでなく、ヒトの医療でもその利用は期待されている。だが、ゲノム編集技術の歴史が浅いことから不安を抱き、慎重になる消費者も少なくない。

 しかし、この肉厚タイについては、研究段階から報道され、海洋資源の保全、日本の漁業の活性化、世界の食料問題の改善への貢献が、技術の説明と一緒にテレビや新聞で報道されてきた。その間、地元企業をはじめとする多くの企業からのサポートも獲得している。