アフガニスタンのカブール空港での自爆テロにより米兵13人を含む70人以上が死亡した。米デラウェア州ドーバー空軍基地で米兵の遺体の帰還を見守るバイデン大統領(2021年8月29日、写真:AP/アフロ)

(北村 淳:軍事社会学者)

 アメリカ政府が自ら主導して育成しようとしていたアフガニスタン政府ならびにアフガニスタン軍を捨て去って撤収逃亡したという状況を捉えて、中国が、台湾やフィリピンそれに日本などに対して、「アメリカの口車に乗っているととんでもないことになるぞ」と脅しをかけ始めた。

 もっとも日本においては、日本をはじめとする同盟国や台湾のような実質的同盟国に、アフガニスタンでの米軍撤退を当てはめるべきではないといった類いの論調が散見される。しかしそれはとんでもない誤りである。

 本コラムでもたびたび取り上げているように、バイデン大統領が副大統領であり、かつ現バイデン政権のアジア太平洋安全保障政策の司令塔を務めるキャンベル国家安全保障会議総合調整官兼大統領副補佐官(国家安全保障担当)が国務次官補(東アジア太平洋担当)であったオバマ政権時代に、アメリカ政府は同盟国フィリピンの苦境をあっさりと見捨ててしまった──2012年のスカボロー礁事件である。

 すなわち、アメリカ政府が米比相互防衛条約に基づき防衛のコミットメントをフィリピン政府に確約していたにもかかわらず、スカボロー礁周辺海域を中国に占拠されてしまうと、オバマ政権は実質的に無視してしまったのだ。それ以降、現在に至るまでスカボロー礁は中国の実効支配下にある(本コラム2021年2月11日2021年3月11日など参照)。