米軍がまるで敗走するように撤退したため、現地に米軍の兵器が放棄されている可能性はあるものの、タリバンが高度なものを使いこなせる可能性は低いでしょう。

 その上、タリバンは、各国による救出活動を認めています。そのため、高度な対空兵器を手に入れていたとしても、これが使用される可能性は低いでしょう。攻撃してくるのは、統制に従わないタリバン内でも過激な一部です。

 消去法で、自衛隊機を狙う対空兵器は、携帯式SAMか機関銃などの銃器だけということになります。

受け継がれているイラク派遣の経験

 現在のカブール空港の状況は、2004年から始められたイラク派遣におけるバグダッド国際空港などの状況にそっくりです。当時の対空脅威も携帯式SAMと銃であり、空港の近くに射手が潜んでいる可能性が高い状況でした。

 イラク派遣が検討され始めた時、私も自衛官として対策の検討に関わっていました。この時は、C-130型機を急遽改造し防護力を高めるなどした他、硫黄島などを使い、ミサイルが使用された場合の回避行動など、特殊な機動を訓練して派遣が行われました。

 空港直上まで高高度を飛行し、らせん状に旋回降下するスパイラルランディングと呼ばれる機動などを訓練しました。また、携帯式SAMは、発射される前に攻撃を察知することが不可能なため、スモーキーSAMと呼ばれる巨大なロケット花火のような模擬携帯式SAMを使用し、発射されたミサイルをクルー総出で監視、回避する訓練などが行われました。さらに、派遣期間は丸5年にも及んだため、途中で戦訓を取り入れ、回避機動などもアップデートしています。

地対空ミサイル回避訓練に使われるスモーキーSAM、出所:YouTube:USA Military Channel「在沖縄海兵隊・地対空ミサイル回避訓練(スモーキーSAM) - US Marines Surface-to-air Missile Avoidance Training (Smokey Sam)