5月21日、ホワイトハウスで首脳会談を行ったバイデン大統領と文在寅大統領(写真:ロイター/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 米軍がアフガンからの撤退を始めてから3カ月、タリバンが主要都市を掌握してからわずか10日、アフガン政府は降伏を宣言し、ガニ大統領は国外に脱出した。タリバン軍の進撃がカブールから11キロ離れたところまで迫ってきたためである。アフガンの陥落は、アフガン政府の無能さや腐敗、政治的分裂が作った悲劇である。

 そして、この事態を目の当たりにして、一部の韓国有識者からは「このままではいずれわが国も」との声が上がり始めている。

米国にとってアフガンに駐留し続けることは国益にならなかった

 アフガンからの米軍撤収は不信と失望によるものである。

 米国は、アフガンに20年間駐留し、アルカイダとの戦争とアフガニスタンの再建に2兆ドル以上つぎ込んできた。2002年以降、アフガニスタン治安部隊(ANDSF)の育成・訓練のために提供した資金だけでも880億ドル(9兆7000億円)以上となっている。

 米軍は戦争中に突然撤退したベトナム戦争時とは違って、アフガンでは10年前から撤退を予告していた。イスラム政府に安保権を渡した14年以降も、米軍約1万人が残ってアフガン軍や警察の訓練を担ってきた。長い準備期間があったのだが、アフガン指導部は分裂を繰り返し、腐敗から抜け出せず、強力なアフガン軍の建設に失敗した。

 ANDSFの兵力は30万人とされていたが、それは数字上だけのものであり、給料を得るため水増しした兵士が多かった。米軍が撤収してからのアフガン政府軍にはもはや戦闘の意志もなかった。

 米国はガニ政権に明らかに失望していた。バイデン大統領は「アフガニスタン軍が自国を守ることができなければ、米軍が1年、5年残っていても変わらないだろう」と述べた。いくら助けても成果がないことに米国が気付いた結果である。