こういうことができたのは、①英国の病院の約9割が国営のNHS傘下にあるので、中央集権的に号令を下すことができること、②元々日本に比べて入院日数が短いことがあげられる。

 後者については、2017年のデータによると、OECD加盟の38カ国の中で日本は韓国(18.5日)に次いで平均入院日数が長く16.2日である。これに対し、英国は6.9日、米国は6.1日、ドイツは8.9日にすぎない。

 欧米では、入院させると病院側の採算が悪くなるので、できる限り早く退院させ、手術台の回転数を上げようとする。筆者は18年前に重い肺炎にかかったことがあるが、そのときも通院治療で、「肺炎くらいじゃ入院させてくれないのか」と思ったものである。

「ブロック・バイ」と仮設病院で約1万1000の追加病床も確保

 同時にNHSは昨年3月21日にスパイア・ヘルスケアやケアUKなど複数の民間病院グループと、8000の病床、約1200の人工呼吸器、700人の医師、1万人の看護師、8000人のその他の医療スタッフの提供を受けるブロック・バイ(塊の購入)契約を締結した。これらは新型コロナの患者だけでなく、がんなど緊急の治療を要する患者にも使用された。非常事態に鑑み、民間グループも協力し、購入価格は原価(コスト・ベース)だった。

 また4月3日から5月5日にかけて、クリミア戦争(1853~56年)の野戦病院で活躍した英国人看護師ナイチンゲールの名を冠したコロナ患者用の臨時の「ナイチンゲール病院」をロンドン、バーミンガム、マンチェスターなど6都市に開設した。6つの病院の病床数は当初3006人で、10960床まで拡大可能だった。場所は国際会議場などの大規模施設を利用し、陸軍が協力して設置した、まさにコロナの野戦病院だった。

イギリスでは「野戦病院」も複数開設された。写真はマンチェスターのナイチンゲール病院(写真:ロイター/アフロ)