(英エコノミスト誌 2021年7月3日号)

米国の民主主義が1人の大統領だった男によって危険にさらされている

 世界中で民主主義を再生させることを公約に掲げて大統領選挙を戦ったジョー・バイデン氏は今、自国の民主主義を守る戦いに身を置いている。

 6月には、民主主義を専門分野とする著名な米国人学者200人が連名で書簡を作成し、複数の州法の改正が「いくつかの州を、自由で公正な選挙が行われる最低限の条件すら満たさない政治システムに変えている」と警鐘を鳴らした。

 やはり米国の民主主義に昔から強い関心を持っている共和上院トップ、ミッチ・マコネル院内総務も今年1月、選挙の敗者からの事実に基づかない申し立てによって選挙の結果を覆すことができるようになったら、「我々の民主主義は死のスパイラルに陥る」と述べた。

 だが、それはまさに、マコネル議員の所属政党が推し進めていることにほかならない。

怖いのは「新ジム・クロウ法」ではない

 民主党にとって、選挙への脅威とは誰が投票できるかということだ。投票に必要な身分証明や郵便投票などについての法改正を批判し、「新しいジム・クロウ法」と呼んでいる。

 確かに、アフリカ系米国人の教会でよく行われる「日曜日の期日前投票」のようなものを制限するのは論外だが、あの怖がり方は大げさだ。

 旧ジム・クロウ法の時代には、南部の一部の州で有権者登録されたアフリカ系米国人は全体の2%にすぎなかった。

 それとは対照的に、今日の計画は投票率に少しでも影響を及ぼすかどうかもはっきりしないと政治学者たちは述べている。

 実は、真の脅威が姿を見せるのは投票が終わった後だ。

 例えばアリゾナ州では、州議会が選挙管理業務の最高責任者の独立性を制限しようとしている。

 ある州議会議員は、大統領選挙の結果を州議会が破棄できるようにする法案を提出したうえ、選挙管理を統括する州務長官に自ら就任すべく選挙に名乗りを上げた。

 ジョージア州では州法が改正され、州議会が郡の選挙管理委員会のトップを更迭できるようになった。

 テキサス州では、選挙管理業務に携わる職員の訴追を容易にする法案が検討されている。

 全米各地の共和党の勢力が強い州で、選挙管理担当の職員が選挙結果を支持したことを理由に攻撃されている。多くの人が更迭のリスクにさらされている。

 自分には縁のない、官僚的な手続きの変更に見えるかもしれない。しかし実際は、これらの変更により、選挙結果に異議申し立てがなされて裁判所でも手に負えなくなる事例が増える恐れがある。

 その結果、米国の選挙制度は弱体化する。しかもその弱体化は、2020年の大統領選挙の結果をめぐるヒステリアが収まった後も続くのだ。