(英エコノミスト誌 2021年6月26日号)

サンドヒル・ロードはスタンフォード大学(写真)脇を西に向かって丘を登って行く道で、道路の周辺にベンチャーキャピタルが林立している

ニューヨークの超活動的なヘッジファンドが及ぼす影響は、ソフトバンクのように巨額の軍資金を誇る「ツーリスト投資家」のそれよりも甚大になる。

 数年前、日本のハイテク複合企業のソフトバンクがベンチャーキャピタル(VC)のルールを書き換えた。

 同社はスタートアップ企業の創業者たちに、手当たり次第に現金を渡していった。

 有力ベンチャーキャピタル(VC)は会議を開き、どうすれば業界がソフトバンクの総攻撃をしのげるか話し合った。

 その後、ソフトバンクの大口投資先の一部で経営にほころびが出始め、ついにはシェアオフィス大手ウィーワークの新規株式公開(IPO)が2019年9月に失敗すると、シリコンバレーのVCのベテランたちは、ほくそ笑んだ。

 あのソフトバンクも、VC業界の権威の表現を借りれば「ツーリスト投資家」、つまり魅力的なスタートアップ企業を物色しにシリコンバレーを時々歩き回る投資家でしかないように思われたからだ。

半年足らずで100社以上に出資

 今、そのソフトバンクから、新たに登場した威勢の良いアウトサイダーへと業界の関心がシフトしている。

 データ会社のクランチベースによれば、やはり株式未公開のハイテク企業に投資するニューヨークのヘッジファンド、タイガー・グローバル・マネジメントは今年1~5月にスタートアップ企業118社に出資し、その数は前年同期の10倍にのぼった。

 同社の投資先ポートフォリオには今、400社を超える企業が名を連ねる。

 そのなかには、暗号通貨取引所のコインベースや、ビデオゲーム制作のロブロックスなど、過去1年間で最も人目を引いたIPOの主役も含まれている。

 しかも、タイガー・グローバルは今年2月に投資家に表明したように、「投資の弾み車をもっと早く回転させる方法を探し求めている」。新たに組成するファンドでは100億ドルを新規に集めると息巻いている。

 ソフトバンクの巨大ファンド「ビジョン・ファンド」の1000億ドルには及ばないかもしれないが、VC業界の基準に照らせば恐ろしく大きな額だ。

 しかもこのニューヨーカーは、巨額の軍資金を誇る日本のライバルのそれよりも長く残る足跡をシリコンバレーに残すかもしれない。