歴史家・乃至政彦氏の新著『謙信越山』が版を重ね話題を呼ぶ。あいまいに指摘されていた「上杉謙信」像を一次史料から掘り下げることで、その誤解や知られざる一面が見えてきた。

同じようなことは、戦国時代に起きたとされる出来事にも言える。たとえば、上杉謙信の戦績「61勝2敗8分」。この数字はいつ、誰が、どのように調べ検証したのか?

『謙信越山』重版記念トークイベントの内容の一部より紹介する。(全3回)動画配信はこちらからご覧になれます。

https://jbpress.ismedia.jp/feature/kenshinetsuzan

謙信が最強と言われるデータ

 上杉謙信の「61勝2敗8分」は真実か。

 今回は武将の強さを測る指標としてよく用いられている「戦績」について、お話したいと思います。

 謙信は61勝2敗8分である。合計71戦を戦ってこれだけの戦勝率を誇ったから最強なのだと。武将の強さを語る上で、戦績はかなり重要視されていると思います。

 ネットでよく見る数字ですし、歴史番組で取り上げられる際にも出てくるくらい、よく使われる分かりやすいデータです。

 この数字にどんな意味があるのかというと、象徴なんです。

オンラインイベントで話す乃至政彦氏。

 戦国時代や戦国武将を想像するための手掛かり、データとして非常に優秀です。実際の戦争の回数はわからないけれども、61勝2敗8分と言われたら、強い武将だったことが想像できますよね。

 謙信に興味を持つ上でのいいフックになると思うんです。

 ですが、この数字は事実ではありません。

 この数字がいつできたかというと、平成からなんです。昭和にはなかった。

 平成になって、ある歴史研究家の方が「謙信はどれくらい勝ったんだ?」と数字を数えてみたようです。

 こうして戦勝率が高いという後付けの説明ができて、謙信は最強なんだという伝説が補強されたわけですね。