ソウルで開催された参鶏湯パーティ。多数の中国人観光客が舌鼓を打った(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

(田中 美蘭:韓国ライター)

 韓国と中国の関係が何やら騒がしい。韓国の伝統や歴史、文化を「中国のもの」と主張するかのような中国側の言動が続き、韓国内での反中感情を高ぶらせている。影響はさまざまなところに波及し、エンターテインメント界も巻き込んで激震の様相を見せている。

 今回、中国との間で論争が巻き起こっているのは参鶏湯(サムゲタン)の起源についてである。参鶏湯は日本でも人気の「韓国料理」として認識されており、認知度も高い。この参鶏湯について、中国最大のポータルサイト「百度(バイドゥ)」で、「参鶏湯は中国に古来から伝わる広東式の料理」「中国から韓国へと伝わり、韓国で宮廷料理として定着した」という説明が記載されていたのだ。これに対して韓国のネットユーザーたちは反応し、激しく反発した。

 中国が韓国の伝統や文化について「自分の国が起源」と主張するのは、参鶏湯が初めてではなく、キムチや伝統衣装の韓服についても参鶏湯と同様のことを発言している。その結果、中国による中国東北部の歴史研究プロジェクト「東北工程」の韓国への浸食を懸念する声や、中国への抗議を毅然とすべきであるといった声が上がっていた。

 参鶏湯騒動が炎上している背景には、3月22日に韓国SBSで放送が始まったドラマ「朝鮮駆魔師」が問題に火に油を注いでいる面もある。朝鮮を滅ぼそうとする悪霊に闘いを挑む男たちの姿を描いたエクソシストファンタジーと銘打った作品だが、この中のある描写が、初回から早速波紋を呼んだ。劇中でピータンや月餅といった中華菓子や食品が使われていた上に、セットの装飾品が中国風だという声があがり、これが「歴史歪曲」と指摘されたのだ。

 事態の収集のためSBSは放送を一時休止し、撮影済のエピソードに大幅な編集修正を加えた上で放送を再開させるとの対応を発表した。だが、蜘蛛の子を散らしたように、ドラマのロケ地など製作協力をしていた自治体やサムスン電子を初めとするスポンサー企業が支援打ち切りを一斉に表明。波紋はますます広がっていった。

 そして、2回の放映を終えた時点で韓国のテレビ史上、初の放送中止という最悪の決定が3月26日下され、出演者たちが次々に謝罪をするという事態にまで至っている。

 この作品はBigBangやBlack Pinkなどが所属するYGエンターテインメントが設立したドラマ制作会社、YGスタジオプレックスなどが中心に制作に関わっていた。320億ウォン(日本円で約31億円)という莫大な投資をして、海外向けの配信も予定されていたというが、すべてが水泡に帰した。中国に忖度したような演出が歴史歪曲につながったという見方や、物語が「フィクション」としながらも太宗という実在する朝鮮時代の王と同じ名前を持つ人物が登場し、ゾンビと絡めて描いていることも不快感や反感を呼んだと考えられる。

 ドラマのスタッフや特に出演者たちにとっては悪夢とも言え、この時期に中国絡みの問題でドラマ自体がお蔵入りになるとは何とも後味の悪い話と言えよう。