THAAD騒動を彷彿とさせる展開

 今回の中国への反感の高まりを見ていて思い出されるのは、2016年に当時の朴槿恵(パク・クネ)大統領下でTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)の韓国内への配置が決定したことに猛反発した中国政府の対応とその影響である。中国政府は韓流文化を規制するため「禁韓令」を発令、韓国芸能人の中国での芸能活動を制限する、国民に韓国への韓国渡航を止めるように求めるなどの報復措置に出た。

 当時を振り返ると、それまでソウルや釜山の繁華街を大挙して闊歩していた中国人観光客たちの姿がパッタリと消えた。買い物で訪れたロッテデパートで従業員と言葉を交わした際に、「中国からのお客急にいなくなっちゃって本当に暇になっちゃったわ」と苦笑いをしながらボヤいていたことを思い出す。この時の中国の対応はサービス、観光業界には痛手となり、いかに韓国に中国からの観光客が多かったということを如実に示した。

THAADに猛反発した中国の「報復」で損失を負ったロッテマートは中国事業を売却した(写真:アフロ)

 また、影響はこれだけにとどまらず、THAAD配置先の土地を提供したとして、中国にグループ企業を含め、ビジネスを展開していたロッテには特に厳しい措置が課せられ、中国国内での不買運動や大型スーパーの撤退の憂き目に遭い膨大な損失を余儀なくされた。

 その後は報復措置や関係悪化も下火となり、落ち着いたように見えていたものの、再び当時のような状態に後退し、さらに今後の韓国政府の中国の対応次第では、国民の反中感情はさらにヒートアップする可能性もあるだろう。

 現在、米国内で激化しているアジア系住民へのヘイトでは、先日のアトランタでの銃撃の犠牲者に韓国系が複数含まれていたこと、BTSが「アジア人への差別や暴力行為に断固反対する」という意思表示を示したことで、「人種差別反対」に同調する空気が韓国でも高まっている。

 しかし、現在の反中感情、さらには2019年の反日感情の高まりを見ると、「相手に非がある」と主張すれば叩いても構わないとするような雰囲気で「人種差別反対」に同調することに矛盾を感じる。

 中国に怒りをぶちまけながらも、韓国のみならず、日本さらには世界が多方面に於いて中国に依存せざるを得ない現状にあるということを見れば、今のように反中を叫ぶだけは何の解決も生み出さず、もう少し冷静になる必要があると言えよう。