「子どもの頃からです。友達と遊んでいても『あ、今、ちょっとイラッときてるな』とか『口では賛成してるけど、本当はこっちがいいんだな』とわかってしまうんです。特にサッカーのようなチームスポーツをしていると、仲間の感情が入ってきてしまって苦しかったですね。
今も変わりません。例えば社長同士の交流会に行くと、話す相手の表情や、言葉の強弱や抑揚から“この人は僕に興味ないなぁ”とか“今言ったこと、気に障ったかな”と察知してしまうんです。いっそ気付かなければラクなんですけどね・・・(笑)」
下方氏は悩みながら社会人になった。すると“メンタルが原因で周囲と息が合わない人って意外と多いんだな”と感じ始めた。
「旅行業の会社で国内向けのWEBマーケティングを担当していた時のことです。デスクの近くにまったく結果を出せない営業がいました。観察すると、僕とは逆に、他人の感情をまったく読み取れないんです。周囲の気持ちもわからないから人間関係もうまくいっていません。ただ、認められている部分もありました。嫌われても折れず、やると決めたらやり抜くんです。鈍感だったから、嫌われてもわからない、方向性が間違っていても気づけないのかもしれませんが、ひたすらやる力は凄かったですね」
下方氏がアドバイスをすると、彼は一転、会社を代表するトップセールスマンになっていった。
「イケてる営業トークをひたすら暗記してもらったんです。伝えるべきことを自分で考えているうちは結果が出せませんでした。でも録音したトークを丸暗記してもらって“こう言われたらこう返す”まで全部覚えると、彼はその後、ヘッドハンティングされるくらいの成績を残したんです。
この時、僕は“何かに苦しんでいる人間は、何か突出した能力を持っているんだ!”と気づきました」
理解し合える世の中をつくりたい
そして下方氏は未知を創業する時、不器用で人に理解されないけれど、何かずば抜けた能力を持った人を採用すると決めた。そんな人たちはどうすれば輝くか。ポイントは意見を傾聴して相手を理解することなのだという。
「うちにはアルゴリズムの分析など、理屈っぽい作業が非常に得意な女性スタッフがいます。彼女は例えば“Googleはどんなサイトを検索結果の上位に表示するか”などを分析させたらピカイチです。でも彼女は会話中、30分くらい黙って考えこむことがあります。聞けば“まだ自分の考えがまとまってないんだから、その時点で発言したら無責任ですよね”と言います。とことん理屈っぽいですよね(笑)」
しかし、その理屈っぽさが役に立つ場面では、彼女が無類の強さを発揮するのだ。
人も企業も、何かのポテンシャルを持っている。企業が存在するのは社会の役に立ってきたからで、人がそこに存在するのも先祖が何らかの能力を発揮して生き抜いてきたから。その能力を互いが知らないのは惜しいことだ。そして下方社長は、彼が生まれ持っていた苦しみの影響もあって、人や企業のポテンシャルを理解し、世に出すことが得意なのかもしれない。
「言われてみればそうかもしれません。今思い出したんですが、私が中学生の時につくった標語があって、それは“全ての人を愛することが自分の力になる”というメッセージ性を持ったストーリーでした。
きっと、理解し合える世の中をつくりたいんでしょうね。僕は自分らしい会社をつくったのかもしれません」