(湯之上 隆:技術経営コンサルタント、微細加工研究所所長)
米国が半導体製造の国内回帰へ
米国のバイデン政権が半導体製造の国内回帰策を掲げる中、米インテルが2021年3月23日、200億ドル(約2兆1700億円)を投じて、アリゾナ州に最先端EUV(極端紫外線)露光装置を使った7nmプロセスの半導体工場を2棟建設することを発表した(日経新聞3月25日)。新工場のうち1棟はプロセッサ用、もう1棟はファンドリー(受託生産会社)用であり、2024年の稼働を目指しているという。
2021年に入って車載半導体の供給不足が深刻となり、世界中のクルマメーカーが減産を余儀なくされている(参考「なぜ車載半導体が不足するのか?カギ握る台湾TSMC」JBpress)。また、世界で唯一5nmプロセスの量産を実現しているファンドリーの台湾TSMCに生産委託が殺到しているため、スマートフォン用、PC用、サーバー用(参考「高騰するDRAM価格と横ばいのNAND価格、“SSDコントローラー不足”も明らかに」EE Times Japan)など、あらゆる半導体が不足している。
加えて、2月13日の福島県沖地震で約3時間工場稼働が停止したルネサスで3月19日に火災が発生し、車載半導体不足に拍車をかけている。また2月12日に米テキサス州を突然の寒波が襲来したため、サムスン電子のファンドリー、車載半導体の世界シェア1位のドイツのインフィニオン、同2位のオランダNXPの半導体工場が36時間停電した上に、薬液の配管が凍結して破裂し、工場の再稼働に相当の時間を要することになった。さらに、台湾の水不足が深刻化し、1日当たり20万トン弱の水を必要とするTSMCは、2万トンの水タンカーを100隻購入するなど、半導体工場の稼働が綱渡り状態となっている。
要するに、ファンドリーの世界シェアで55%を占めるTSMCの生産キャパシテイが逼迫している上に、地震や寒波による停電、水不足などの自然災害に加えて火災も発生し、世界中であらゆる半導体が足りなくなってきているのだ。
戦略物資となった半導体
2018年に総額4688億米ドル、1兆個を超える半導体が出荷された(図1)。世界の総人口は約76億人であるから、世界平均で、1人当たり1年間で、約62ドル(約6800円)、132個の半導体を購入している計算になる。そして、今年2021年は、出荷額も出荷個数も2018年を超えて過去最高を記録する可能性が高い。
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