服務規定に反すれば「第2階層」違反だ

 まず、具体例をそれぞれの階層ごとに挙げて説明しよう。

 初めに第1階層の「法令を遵守した行動をとること」である。現在、「時間外労働の上限規制」というルールが、企業規模を問わずに適用されている。このルールでは、時間外労働の上限は原則として月45時間、年360時間とされている。そのため、本規制に沿った労務管理を行わなければ、労働基準法を遵守していないこととなり、『企業倫理の3階層』の第1階層に反する。これが、一般的に言われるコンプライアンスの概念だ。

 次に、第2階層の「法令に定めがない場合でも、企業・業界内規則を遵守した行動をとること」の例として、前述の「在宅勤務を命じられた若手社員のケース」を見てみよう。確かに、「在宅勤務中に仕事をサボってはいけない」などと直接的に定めた法令があるわけではない。しかし、先ほどの企業が在宅勤務規程を作成しており、その中で「在宅勤務中は業務に専念をすること」という服務規定を設けていたらどうだろうか。

 この場合、在宅勤務で仕事をサボっていた若手社員は、企業が定めた服務規定に従っていないことになる。そのため、「法令に定めがない場合でも、企業・業界内規則を遵守した行動をとること」に反しており、『企業倫理の3階層』の第2階層違反となるのである。

第3階層では「常に倫理的な行動をとること」まで求められる

 最後に、第3階層の「法令、企業・業界内規則のいずれにも定めがない場合でも、倫理的な行動をとること」を考えてみよう。この点については、少し古いが象徴的な事例を紹介する。

 今から約20年前、大手飲料会社による食中毒事件が発生した。その際、経緯説明の記者会見を一方的に打ち切った企業側に対し、多くのメディアが会見の延長を求めて詰め寄る事態となった。これに対し、企業側のトップは記者たちに向かって「私は寝ていないんだよ!」と声を荒らげて立ち去ろうとした。「自分は寝ておらず疲れているから、会見の延長はしない」という趣旨の発言だが、これが殊のほか大きな社会的批判の的となったものである。

「私は寝ていないんだよ!」と声を荒らげる行為は法律で規制されているわけではなく、企業・業界内規則で禁じられているわけでもない。それにもかかわらず大きな社会的批判の的となった理由は、この状況を見ていた多くの国民が「企業トップの行動として倫理的ではない」と判断したからである。これが第3階層の考え方だ。

 ぜひとも、4月に実施する新入社員研修では、新社会人の皆さんに『企業倫理の3階層』の考え方を伝えてほしい。


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大須賀信敬
コンサルティングハウス プライオ 代表
組織人事コンサルタント・中小企業診断士・特定社会保険労務士
https://www.ch-plyo.net

 

著者プロフィール

HRプロ編集部

採用、教育・研修、労務、人事戦略などにおける人事トレンドを発信中。押さえておきたい基本知識から、最新ニュース、対談・インタビューやお役立ち情報・セミナーレポートまで、HRプロならではの視点と情報量でお届けします。