政府は、日本全体の経済成長を推進していくために、日本型の雇用慣行を脱却し、多様な雇用形態を生み出していく必要があると考えている。雇用制度改革に向けて労働施策総合推進法(労働政策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)を2020年に改正。2021年4月1日から正社員に占める中途採用の比率を公表することを義務付けたのもその一環といえる。いわゆる、「中途採用比率の公表義務化」だ。そこで今回は、この「中途採用比率の公表義務化」の概要や背景・目的、対応の仕方、メリット・デメリットなどを解説していきたい。

知らないでは済まされない「中途採用比率の公表義務化」とは

「中途採用比率の公表義務化」について知らなかったでは済まされない。まずは、「中途採用比率の公表義務化」とはどのような制度であるのか。その概要を説明しよう。

●「中途採用比率の公表義務化」に関する概要
「中途採用比率の公表義務化」とは、企業に中途採用比率の公表を義務付ける制度だ。中途採用比率とは、正規雇用労働者の採用者数に占める正規雇用労働者の中途採用者数の割合を意味する。

 分かりやすく言い換えるならば、企業で働く社員全体に対して、中途採用者が何人働いているかを示す割合のことだ。対象となるのは、常時雇用する労働者の人数が301人以上の大企業。中小企業に関しては、中途採用が既に浸透していることや制度を実施した場合に想定される事務的負担が大きいことから、対象外となった。

「中途採用比率の公表義務化」の施行日は、2021年4月1日。以後は、おおむね年に1回以上、直近3事業年度の各年度について、採用した正規雇用労働者の中途採用比率を公表していかなければならない。この場合の、正規雇用労働者とは新規学卒等採用者以外の雇い入れを指す。

・正規雇用労働者とは
 基本的には「いわゆる正規型の労働者」を指し、社会通念に従い、当該労働者の雇用形態、賃金体系等を総合的に勘案して判断される。

・新規学卒等採用者とは
 新たに学校・専修学校を卒業した者、職業能力開発促進施設(職業能力開発校、職業能力開発短期大学校、職業能力開発大学校、障害者職業能力開発校)、職業能力開発総合大学校の行う職業訓練を修了した者、またはこれに準ずる者であることを条件とした求人により雇い入れられた者を意味する。

●中途採用比率の公表の方法
 中途採用比率を公表する方法は、インターネットの利用その他とされている。いずれであっても、求職者が容易に閲覧できる方法でなければいけない。

●中途採用比率の公表に関する罰則の有無
 もし、公表しないとどうなるのであろうか。法律上では罰則は規定されていない。ただ、今後は違反した企業に何らかの指導や勧告を行う省令(ガイドライン)が定められ、企業に周知される可能性もあるので注意しておきたい。

そもそも「中途採用比率の公表義務化」には、どのような背景や目的がある?

 次に、「中途採用比率の公表義務化」の背景や目的を説明したい。

●「中途採用比率の公表義務化」の背景とは
 この制度が義務化された背景には、少子高齢化が進展するとともに個人のライフスタイルもますます多様化しつつある日本の現状がある。しかも、人生100年時代と言われ、今後は長期に渡り働かなければいけない社会を迎えるだけに、新卒一括採用を見直し、多様かつ柔軟な働き方を実現していく必要がある。

 新卒一括採用や長期雇用などは、日本的な雇用慣行の象徴とされているだけに、そこから脱するためにも「中途採用比率の公表義務化」を機に転職や中途採用が広く受け入れる社会にしていきたいと政府は考えている。

●「中途採用比率の公表義務化」の目的とは
 厚生労働省のホームページでは、「中途採用比率の公表義務化」の目的を、「労働者の主体的なキャリア形成による職業生活のさらなる充実や再チャレンジが可能となるよう、中途採用に関する環境整備を推進すること」と示している。より理解しやすくするために、以下の三点に捉え直してみたい。

(1)企業と中途採用希望者とのマッチング促進
 今回の制度対象である大企業は、まだまだ新卒一括採用に重きが置かれており、中途採用の比率は比較的少ない。中途採用比率を公表することにより、企業間での比率格差が明確になるだけに、より中途採用に対する取り組みが活発化されると期待されている。それが結果的に、中途採用を希望する労働者と企業のマッチングを促進、容易にすると考えられている。

(2)高年齢者の雇用・就業機会の確保
 人生100年時代を迎える中、働く意欲がある高齢者にも雇用機会を確保する必要がある。中途採用比率を公表することで、大企業を中心に中途採用者がますます活躍の場を広げていけば、高齢者であっても挑戦しやすい機運をつくることができると期待されている。

(3)中途採用者の雇用を希望する企業側のニーズ
 現代社会は技術革新が激しいだけに、自社の人材を育成・活用しているだけでは競争に打ち勝つのは難しくなってきている。それだけに、外部から高度な技術や豊富な経験を有する人材を迎えたいというニーズは、一段と高まりつつある。中途採用比率を公表すれば、自社に中途人材を迎え入れる余地を示すことができるといえる。