もうすぐ4月。まもなく新年度の始まりである。各社とも新入社員の受け入れ準備に余念がない頃であろう。新入社員に対する研修では、「コンプライアンス」に関する教育が不可欠である。ところで、社員教育の現場では「コンプライアンス」を「法令遵守」とだけ説明するのは、必ずしも好ましいとは言えない。それは一体、なぜだろうか。

若手社員からの「私はどんな法律を犯したのですか?」という反論

 現在、多くの企業が「企業活動におけるコンプライアンスの重要性」を認識し、新入社員に対しても「コンプライアンスを徹底するように」といった教育を行っている。その際には、コンプライアンスを「法令遵守」と説明するケースが多い。つまり、コンプライアンスとは「法律を守ること」と説明しているのである。この指導に何か問題はあるだろうか。

 それでは、「コンプライアンス=法令遵守」と教育する企業で、実際に起きた社員トラブルを紹介しよう。

 とある企業が、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、社員に在宅勤務を命じた。しばらくして、業務進捗が芳しくない若手社員に上司が面談したところ、その社員は在宅勤務中に仕事をサボっていたことが判明した。やる気が出なかったそうである。

 この話を聞いた上司は、「在宅勤務で仕事をサボるのはコンプライアンス違反だぞ!」と若手社員を厳しく叱責した。ところが、若手社員は上司にこう反論した。

「私はどんな法律を犯したのですか?」。

 この企業では、新入社員研修でコンプライアンスを「法令遵守」と説明していたのである。

企業コンプライアンスに必須の『企業倫理の3階層』

 確かに、辞書的な意味合いでは、コンプライアンスは「法令遵守」と説明されることが多い。そのため、多くの企業では社員に対し、コンプライアンスを「法令遵守」と教育しがちである。しかしながら、「企業活動に要求されるコンプライアンス」とは、法令遵守よりもはるかに広い概念で捉えられているのだ。

 企業活動に携わる以上は、仮に法令に定めがなかったとしても、企業内・業界内に特有の定めがあるのであれば、それも遵守しなければならない。さらには、法令、企業内・業界内のいずれにも抵触していなかったとしても、社会通念に照らして「好ましくない」と思われる非倫理的な行動は決してとってはならないのだ。

 これが企業活動に要求されるコンプライアンスの概念であり、このような考え方を『企業倫理の3階層』などと呼ぶ。整理をすると次のとおりである。

『企業倫理の3階層』
・第1階層:法令を遵守した行動をとること
・第2階層:法令に定めがない場合でも、企業・業界内規則を遵守した行動をとること
・第3階層:法令、企業・業界内規則のいずれにも定めがない場合でも、倫理的な行動をとること