「中途採用比率の公表義務化」の対応に向けて、企業は何をすべきか
それでは、実際に「中途採用比率の義務化」に対応していくために、企業は何を準備したら良いのであろうか。実はやるべきことは数多くある。漏れがないようにするとともに、それぞれの作業を効率的に進めていただきたい。
●義務化の内容のこまめな情報収集
「中途採用比率の義務化」に関する情報をこまめに入手し、その内容を的確に把握しよう。実際、中途採用比率の算出基準や公表方法、公表時期などの項目が今後変更となる可能性もあり得る。厚生労働省のホームページや省令(ガイドライン)などを随時チェックし、最新の情報をおさえておきたい。また、得られた情報に基づいて、企業内で指針等をスピーディーに作成していくことも大切になってくる。
●義務化に向けた担当部署の設置
大企業となると、社員数も多いために必要なデータの収集やコンテンツの構築など、業務量は自ずと膨大になってくる。効率的かつ迅速に対応するには、担当する部署、担当する人員数、役割分担などを事前に固めておく必要があるといえるだろう。
●中途採用の社内基準の整備
中途採用比率が公表されるようになると、中途採用を巡る競争は一段と激化すると予想されている。中途採用に慣れている企業であれば問題はないかもしれない。一方、あまり積極的でなかった企業だと、どのように採用や評価を行えば良いかといったノウハウもなく、ミスマッチになる可能性もあり得る。自社における中途採用の基準や内部の制度を再確認し、不十分な点があれば早急に改善しなければいけない。
またその他、公表の対象となる社内データを速やかに整理しておくことも忘れてはいけない。公表に向けて、かなりの手間を要すると見込まれるので早めの取り組みを進めたい。
「中途採用比率の公表義務化」に対応することで、企業にはどのようなメリットがある?
中途採用比率を公表すると、企業にはどのようなメリットがあるのであろうか。大きく分けて3つ紹介したい。
●中途採用に対する積極性をアピール
中途採用を希望する労働者が転職先を選択する際に、中途採用比率を参考にすると予想される。その比率が高ければ、企業としては多様性を大いにアピールできる。求職者の応募意欲も高まるので、結果的に優秀な人材を確保しやすくとなるといえる。
●企業と求職者のマッチング精度向上
中途採用比率の公表によって、これまでより企業側の職場環境を労働者が把握しやすくなり、マッチング精度の向上が見込まれる。マッチング精度が上がれば、採用コストも抑えられるだろう。
●早期退職の防止
事前に中途採用率などが分かっていれば、採用を希望する労働者は企業内の職場情報を掴みやすくなるため、早期退職の防止にもつながるといって良い。
注意したい「中途採用比率の公表義務化」のデメリット
もちろん、「中途採用比率の公表義務化」は企業にとってメリットばかりではない。デメリットも想定される。
●未知数の部分が多く、コストをかけづらい
ネックとなるのは、実際に中途採用を希望する労働者が、中途採用比率をどの程度重視するかが未知数であることだ。それだけに、公表義務化に対応するために、どんな体制を構築したら良いのか、人員やコストをどの程度掛けたら良いかが判断しにくい状況にある。といって、何もしないというわけにはいかないので、他企業の動向や社外の専門家のアドバイスも受けながら、アクションを起こしていく必要があると言えるだろう。
●企業イメージの形成
もう一点は、例えば他社と公表の数字に開きがあったりした場合に、年功序列型の社風であるとか、プロパー社員偏重の閉鎖的な企業だと思われてしまう可能性がある。こうした企業イメージの形成は、採用へのリスク要因になりかねない。
中途採用比率の公表に対して、まだ着手していない、十分な準備ができていないといった企業は早急に準備を進めていく必要があるだろう。もちろん、単に比率を公表すれば良いというわけではない。中途採用者が入社後存分に力を発揮し、業績拡大に貢献してくれる職場づくりも大切だ。企業へのメリットも多分にあるため、情報収集や社内体制の整備を進めながら、「中途採用比率の公表義務化」に取り組んでいただきたい。
■エンワールド・ジャパン株式会社:「中途採用比率の公表義務化」に関する意識調査
■サン&ムーン 代表 社会保険労務⼠ ⽥中亜⽮⼦:「中途採用比率の公表」が2021年4月から義務化へ
著者プロフィール HRプロ編集部 採用、教育・研修、労務、人事戦略などにおける人事トレンドを発信中。押さえておきたい基本知識から、最新ニュース、対談・インタビューやお役立ち情報・セミナーレポートまで、HRプロならではの視点と情報量でお届けします。 |