先日、面識のある経営者の方が新型コロナウイルスに罹患しました。人間、やはり自分の知っている人、実際に会ったことのある人がそうした状況になって、やっと「自分ごと」になっていくものだと思います。「喜怒哀楽」と「危機感」の違いは何だろうと考えたことがあります。喜怒哀楽は、テレビ越しやリモート越しにも伝わることがあります。しかし危機感というのは、喜怒哀楽が100としたら画面越しには10も伝わってこないものだと思います。ニュースで事件や事故が起きても、自分の知らない土地、知らない人の話であれば「気を付けないと」と一瞬思っても、次の瞬間にはもう忘れてしまいます。自分が直接的に触れる範囲で危機が訪れたときに、初めて内から湧き出る性質のものが「危機感」なのだと思います。

「危機感」が湧きにくいのが人間という前提をもとに、組織作りをしていく

 私も仕事上やコラム・書籍などで、「経営者に万が一のことが起きて不在になったらどうするんですか」、「人手がいないことを理由にいつまでもシングルチェック体制を続けていたら万が一の時に不正や不良品が発生しますよ」とお伝えするのですが、多くの人は万が一のことにお金をかけたくない、考えたくないのでスルーしてしまいます。

 とはいえ、今書籍でも話題になっているような、ほんの少しのことでも過敏に反応してしまうような繊細な性格だと、逆に社会生活を営むこと自体が難しくなるとも思います。「もし歩いてきて突然上からものが落ちてきたら」などと毎日考えていたら、生きていくこと自体苦しくなります。だから人間というのは、そもそも「危機感」が湧きにくい生き物なのだ、ということを前提にして、組織作りをしていくことが大切なのだと思います。そして会社に起こり得るさまざまな危機を回避する手段が、しっかりとした「内部統制」、「業務フロー」なのだと思います。

 今、会社にとっての危機の要素といえば、新型コロナによる様々な影響でしょう。売上が回復しない、資金繰りが苦しい、事業転換をしないといけない……。解決、対応しなければいけないことが山積みです。その中でも「経営者や社員が新型コロナに罹患したら」ということに関しては、かなりの温度差が会社間で見られます。

 売上の減少や資金繰りの対応に関しては、新型コロナ以外の危機でリアルに体感したことがある人達も多いので、経営者も素早い対応をしているところがほとんどでしょう。しかし、健康のことに関しては、皮肉ですが経営者や経営者に近いポジションになればなるほど「自分は大丈夫」という人が増えていきます。これは精神面、つまり「そう思い込まないと会社経営や部下のマネジメントなどやっていけないから」という理由も大きく起因しているのではないかと思います。私自身もフリーランスですので、健康にはすごく気を付けていますが、精神論や身体を鍛えるだけではダメだと思っています。危機管理には論理的な仕組み作りが必要です。