会社の信頼や数字を守る「ダブルチェック体制」
経営者の方でストイックにジムに通って筋トレをしたり、プロテインを飲み、スポーツなどをされたりしている方が私の周りにも非常に多いですが、たとえば新型コロナなどは身体を鍛えていたところで、かかる人はかかります。私の知り合いの新型コロナに罹患した方もジムに定期的に通って健康体そのものでした。だから「自分だけ」がパーフェクトでも、組織の危機管理はそれだけではカバーしきれていないということです。組織の危機管理の本質は、「誰かが病気になっても、誰かがカバーできるようなダブルチェックの体制を敷く」ということです。その上で、「個々人でもお互いに負担をかけないように健康には気をつけましょう」ということです。
「自分鍛え」も大切ですが、まずは経営者ご自身に不可抗力のアクシデントが起きた時に、その瞬間から経営者の代理として経営判断ができる人、契約内容をチェックできる人、社員に指示を出せる人など、そういった「万が一」の時に備えた業務体制はできた上で身体を鍛えていらっしゃいますか、ということです。新型コロナが発生して1年になります。1年もあって、今日現在も未だに「自分は大丈夫だから」と、何もそうした会社の危機管理体制を整えずにいる方がいたら、本当にそれで良いのかもう一度考えていただきたいのです。
私は以前から、「もし突然売上0円になったら」という前提で、体制を整えてくださいと危機管理のコツを聞かれた際にはお伝えしてきています。今まではそのようなことを言っても、実際に経営危機に陥った会社で苦労をしてきた経験のある人は共感してくれましたが、それ以外の人には響きませんでした。しかし新型コロナで実際にそのようなことはたくさん起きました。正直なところ、実際に起きてしまってからではもう救えない業種や会社もたくさんあります。だから事前に万が一の危機に備えておく必要があり、その声に耳を傾ける必要もあるのです。
計数的な視点から見て、総務人事部の業務に関する「万が一」というのは、「経営者や社員がある日突然職場から離脱したら」ということだと思います。誰かひとり欠けても、売上が減る、品質が下がる、という事象が起きたらいけません。「新型コロナだから仕方がないよね」と周囲から慰め、励ましてもらったところでその人達がお金を補填してくれるわけではありません。実際に資金がなくなってしまったら会社は潰れます。自分の身は自分で積極的に守らなければいけない時代です。「もし経営者が新型コロナに罹患したら、この決裁はAさんが代わりに……」という話し合いすらしていない会社は、今すぐ経営者と総務人事部で話し合い、万が一の時のダブルチェック体制作りをしたほうがいいでしょう。
会社の関係者が新型コロナに罹患することは決してポジティブな事象ではありませんが、もし経営者や社員が新型コロナに罹患した際に、その会社が素早く事実の公表やそれに伴う対応などをしてくれたら、やはり取引先や顧客は「この会社は危機管理が強い会社だ」、「この会社は潰れないな」、「いい会社だ」と思い、安心し、信頼します。新型コロナに罹患してしまった当人も、勤務先がダブルチェック体制を構築できていれば自分の業務を誰がやるのか、会社や同僚、取引先に迷惑がかかっていないかなど、心配せずに安心して治療に専念できます。
経営者や総務人事の方には、「個々人の身体やメンタル面での健康」の他に「健康を害した時に安心して治療に専念できる業務フロー体制」という見方からも、ダブルチェック体制が、身体のケア、心のケア、会社の信頼、会社の数字など、さまざまなことを守れることを知っていただきたいです。
著者プロフィール 流創株式会社 代表取締役 経営コンサルタント/作家 前田 康二郎 数社の民間企業で経理総務、IPO業務、中国での駐在業務などを経て独立。現在は「フリーランスの経理部長」としてコンサルタント活動を行うほか、企業の顧問、社外役員、日本語教師としての活動、ビジネス書やコラムの執筆なども行っている。著書は『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』のほか、『スーパー経理部長が実践する50の習慣』、『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』、『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』『経営を強くする戦略経理(共著)』、『スピード経理で会社が儲かる』、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』、『自分らしくはたらく手帳(共著)』など多数。節約アプリ『節約ウオッチ』(iOS版)も運営している。また、2020年6月26日に新著『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』が発売された。
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