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1983年10月12日、ロッキード事件丸紅ルート判決公判に出廷のため、東京地裁に入る田中角栄元首相(写真:代表撮影/AP/アフロ)

(文:春名幹男)

 1976年2月5日、『朝日新聞』朝刊は2面の真ん中あたりに「ロッキード社 丸紅・児玉氏へ資金」と5段見出しで、ロッキード事件の発覚を伝えた。あれからちょうど45年経ったが、日本を揺るがした戦後最大の国際的疑獄にしては、ひっそりとした第1報ではあった。

 実は、この事件を調査した米上院外交委員会多国籍企業小委員会(チャーチ小委)公聴会の初日、日本人記者は1人もいなかった。『朝日新聞』の記事はロイター電を見て慌てて転電したのが事実だった。

 残念なことに、この事件発覚のスタートから、日本のメディアは真相解明に遅れ、後述する人気作家の新刊書も含めて、未だに「陰謀説」から脱却できていないのが現実だ。

 古今東西を問わず、陰謀説は世界を惑わし、国を誤る。朝鮮戦争、ジョン・F・ケネディ暗殺事件などをめぐる陰謀説は国際関係に重大な影響を及ぼす。米連邦議会議事堂で暴れたQアノンは、陰謀説を盾に「不正選挙」を主張して混乱を招いた。真実が明らかにされなければ、国益を損ねてしまう危険な問題なのだ。

 昭和から、平成を挟んで令和となった今、日米の闇の底に沈んだこの事件の真実を突き止めたいと願い、私は拙著『ロッキード疑獄――角栄ヲ葬リ巨悪ヲ逃ス』(KADOKAWA)を上梓した。この本では、陰謀説の解明を欠かすことはできない、と徹底して取材した。

米側は田中をひどく憎んでいた

 長丁場にわたるロッキード疑獄取材のきっかけは、米民間調査機関「国家安全保障文書館」のアナリストを務める畏友、ウィリアム・バーが2005年に日本を訪問した際、「驚くべき文書を発見した」と教えてくれたことだ。

 その文書は1972年8月31日付「トップシークレット/アイズオンリー」の指定。ヘンリー・キッシンジャー大統領補佐官はその中で、田中角栄首相とみられる日本人らを「ジャップは上前をはねやがった」と烈火のごとく罵っている。この文書は現在も同文書館のホームページ上にある。
 

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