「副業・兼業」解禁に際して、企業が対策するべき「注意点」

 副業・兼業を解禁するにあたっては、「解禁前」・「申し出があった時」・「開始後」という3つのタイミングによって、企業がとるべき対応にポイントがある。

●企業が「副業・兼業」の解禁前に行っておくべきポイント
 企業側は「副業・兼業」の解禁を従業員に向かって通知する前に、あらかじめ制度化し、ルールを明確化しておく必要がある。

・「副業・兼業」を行う際の手続き方法
「事前の承認・承認者」、「届け出の有無」、「提出書類」など。従業員が副業希望を申請し、直接、上長・管理部などへ届け出るのか、上長を通じてエスカレーションするのか、また、どのような書類が必要なのか、といった制度は事前に整備しておくことが必要だ。

・「副業・兼業」を認める業態
「業務内容」、「就業日・時間」、「就業期間」、「就業時間帯」、「勤務地」など。当然のことだが、知らされた副業先が反社会的なものとつながっていないか、といった点にも注意が必要だ。副業先選びは個人の裁量とはいえ、現代の風潮では、万一の時に「調べていなかった」という言い分は通らない。

・従業員の副業先での労働時間・健康状態を把握する仕組み
「勤務表の提出」、「産業医面談」、「上司や人事担当との面談・報告」など。

●従業員から「副業・兼業」の申し出があった時点でのポイント
 企業側は、従業員が申し出た「副業・兼業」に問題がないかを確認する。明確な基準をあらかじめ作っておき、それを基に確認するのがよいだろう。開始にあたっては、必要な手続き・書類の提出といった、企業への通知方法について、しっかりと説明する必要がある。

 なお、この際にも、従業員に対して「必要以上に情報を求めないこと」が重要だ。企業側が副業・兼業先の情報を求めることは必要だが、機密情報まで求めるといった行き過ぎがあった場合、競業・利益相反として裁判になってしまう恐れがある。これでは、企業の信用失墜につながってしまう。従業員への確認は、「本業に支障がないかどうか」の確認に留め、基本的に後押しする姿勢をとるべきである。

●「副業・兼業」の「開始後」のポイント
 定期的に「副業・兼業」を開始した従業員とコミュニケーションを取り、健康状態の確認や業務への支障がないかを定期的に確認する。同じ職場の従業員からヒアリングするのも有効だ。

「副業・兼業」の「受け入れ先」となる場合

 ここまで解説してきた「副業・兼業」は、あくまで自社の従業員が他社の業務に従事する場合を想定したものだが、「副業・兼業の解禁」にはもうひとつの側面もある。他社に勤務している優秀な人材を、副業・兼業として自社で受け入れることができるメリットだ。

 自社が「副業先」となる際にも、人材の受け入れを開始する前に規定を設け、制度化しておく必要があるのは同じことである。社外の人材に自社の業務にあたってもらい、充分に能力を発揮してもらうには、働きやすい環境整備が必要だ。

・雇用期間や賃金の規定
 自社従業員と同様に雇用する場合もあれば、あるプロジェクトにだけ参加といった短期雇用の場合も考えられる。また、月給制か時給制なのか、交通費・通信費支給の有無といった賃金規定も、副業者全員一律でなく、個々に応じて明確に設けなければならないケースも考えられる。

・副業者用の就業規則の制定
 就業時間や日数、働く場所の決定。リモートワークの可否など。

・リスク回避のための書類
 本業との混同を避ける旨や情報漏洩に関する誓約書などを用意する。

・自社従業員とのコミュニケーション方法
 リモートワーク下でも孤立しないコミュニケーション方法を考慮し、社外で得たスキルを、ミスマッチを起こさず充分に発揮できる環境を整える。

 これらの明確なルールは、副業者の募集前からしっかりと準備し、副業者に業務に就いてもらう旨は社内に周知しておかなければならない。万全の準備のもと、社外リソースを必要に応じて短時間・短期間だけ雇い入れるといった「柔軟な人材活用」を行うことは、新たな空気を社内に持ちこみ、企業の成長や自社従業員の意識変革を促すきっかけにもなる可能があるだろう。

【関連リンク】
・ライオンが副業を推進する意義とは――「副業によって人材開発を促進する」という人事の挑戦

 これまでの「副業・兼業」という言葉からは、社内リソースの外部流出といったマイナスのイメージを持っていた企業も多いかもしれない。しかし、きちんと制度化し、明確なルールのもとで運用されれば、限られた優秀人材を複数の企業でシェアでき、社会全体にメリットがあるサイクルを築くことができる。従業員側にとっても、自身のスキルを高く評価してもらえることで労働意欲が増進し、収入面の安定にもつなげられる。政府の後押しもある今、「副業・兼業」をポジティブにとらえ、企業・人材双方の成長手段として活用していくことが大切だ。

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HRプロ編集部

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