「副業・兼業」が企業にもたらす「メリット」とは?

 企業が「副業・兼業」を解禁することで得られるメリットには、下記のようなものが挙げられる。

●優秀な人材の確保と柔軟な雇用
 上述の通り、まずは収入・生活面での不安が減ることで、より良い収入を求めた転職を防ぐことができる。また、育児・介護といった避けられない理由で退職を検討していた従業員も、本業の企業に在籍したまま在宅で副業・兼業が可能になり、パートやアルバイトに転職することもなくなる。企業にとっては貴重な戦力の喪失を防げるようになるのだ。

●モチベーションとエンゲージメントの向上
 働き方・生き方に対する価値観が多様化する中、本業を続けながら、収入・生活や身分保障はそのままに「興味のある仕事」に携われ、「自己実現」もができるならば、労働者にとってその企業は「自由度の高い魅力的な職場」となる。その結果、本業の企業に対するエンゲージメントも向上するだろう。

●人材育成とスキルアップの手段
「人材育成」につながるという点は、企業にとっての大きなメリットだ。一つの企業内で獲得できる知識・スキルには限界があり、「副業・兼業」先の社外から新たな知識やスキルを獲得できれば労働・生産性の向上も図ることができる。スキルの向上は、キャリアの開発にもつながるだろう。たとえば、個人事業を開業するという兼業であれば、経営マネジメントのスキルを学ぶ機会にもなる。

 また、社外で自分の実力がどれくらい通用するのかを試してみることは、客観的な評価基準を身につけることにもなるだろう。

「副業・兼業」を解禁する前に、まず企業がチェックすること

「副業・兼業」は、従業員が会社側に黙ったまま、誰でも始めてよいわけではない。企業は、下記のような手続きを経て開始してもらうよう、道筋を作る必要がある。

●届出制度の制定
 企業側は、副業・兼業を希望する従業員には、書面で申請してもらい、管理していく方法がよいだろう。下記の提出によって、副業・兼業によって懸念されるリスクを回避することにも役立つ。

・副業・兼業先の情報
 会社名、所在地、業務内容、雇用形態、就業時間、勤務日数など、基本情報を聞き取る。

・情報漏洩についての誓約書
 本業で知った情報や、得たリソースを副業先で使わない旨を、書面として残しておく。

・「本業に支障をきたさない」旨を記載した誓約書
 労働時間の上限や深夜労働の可否など、一定の規制は設けておく。

●就業時間や健康状況の把握
「労働基準法」で「労働時間に関する規定」が定められているため、副業・兼業先で就業している時間と本業での就業時間を合算する必要がある。そのため、従業員から「副業・兼業先での就業時間」を申告してもらわなければならない(「労働基準法」第38条:労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する)。

 副業・兼業を行う従業員の健康面への懸念がある場合、自社と副業・兼業先の企業で時間外労働(残業)や休日労働の抑制・免除するといった配慮も必要になる。さらに、従業員の健康状況を把握するためには、定期健康診断のほかに産業医との面談を設定することも有効だ。