駅前というのは、その街の顔だ。たとえその駅で降りなくとも、「ああ、ここまで来たんだ」という実感が湧く。だから個性的な方がいい。理想は思わず途中下車したくなるような駅前だろう。

 私は以前、東京に住んでいた時、実家のある京都との間を新幹線でよく往復した。いつも通過する名古屋駅は、あまり個性のない普通の駅だった。ところが、数年のうちに開発が進み、まず駅前の高層ビル、ツインタワーがランドマークとなった。

 いつの間にか、私にとってあれがすっかり名古屋の景色として馴染み、一度降りてみたくなった。縁あって30歳で初めて下車し、その後6年間その地に住むことになる。

 これは何も都市に限った話ではない。温泉街には情緒漂う駅前の雰囲気があるし、田舎には田園風景にマッチした駅前の光景が広がる。

 大切なことは地域の顔である駅前が、自分の個性を輝かせているかどうかだ。とりわけ大きな駅に併設されている駅ビルは、人と人が行き交う交流拠点である。その意味で街の賑わいの創出も担っており、役割は小さくない。

迷走する駅前再開発計画

 私が今住む山口県周南市にも、大きな駅がある。JR徳山駅だ(徳山駅周辺の地図はこちらの記事を参照)。山陽新幹線が止まる。コンビナートのある工業都市なので、石油化学関係の出張者が多いのだ。乗り換えなしで東京と徳山をつなぐのぞみの直通も走っている。在来線口がある北側は、駅前にバス乗り場があり、商店街にも接続している。

 駅の建物にいくつかの店はあるが、駅ビルと呼べるほどのものではない。そこで、数年前から駅前再開発の計画が立ち上がっている。合併特例債が使えるからだ。ところが、市長の交代もあり、計画が二転三転している。

 大きく分けると、大型商業施設を誘致するか、もしくは地元商店街に配慮して、特産品売り場や図書コーナーを盛り込んだ小規模のものにするのかという対立であるようだ。

 合併特例債の期限もあって、もはやゆっくりと市民の声を聞いて、それを計画に反映していける余裕はないという。しかし、実際に使うのは市民なのだから、市民の声を聞くのが一番であるはずだ。どうもその辺がないがしろにされている感が否めない。

 「駅は買い物に便利だから、大型の商業施設ができてほしい」。通学でこの駅を経由する学生の声だ。「商店街も工夫次第で、相乗効果によって繁盛すると思う」。子どもの頃から地元に住んでいる同僚もこう言う。

 大都市の駅前は、駅ビルと商店街がきちんと共存している所も少なくない。私も駅ビルの開発に賛成だ。特に情緒を重んじるべき歴史や雰囲気があるなら別だが、工業都市の中核となる駅なのだから。