(PanAsiaNews:大塚 智彦)
東南アジア諸国連合(ASEAN)の大国で巨大マーケットを抱えるインドネシアに10月初め、衝撃が走った。1988年のアジア通貨危機の際に起こった経済危機の時以来、22年ぶりに「景気後退局面」に入ったことが政府中央統計局発表の数字などから明らかになったのだ。
インドネシア政府財政当局者らは経済状況が深刻なことは認めながらも、「最悪の事態は脱出しつつある」、「改善の基調を示す数字も出てきている」と悲観的な見方の火消しに躍起となっている。だが、インドネシア国内の失業者や経済困窮者の増加に歯止めがかかっていない状況は相変わらずで、政府の楽観的な見方が景気後退の深刻な実態を見えにくくしているとの見方も一部で広まっている。
今年3月以降の新型コロナウイルスの感染拡大が景気後退の最も大きな原因であることには異論がない。
そもそもこれまでの経済成長は、強い経済基盤や堅調な指標に支えられたものではなかった。そこを襲ったのがコロナ禍だ。首都ジャカルタなどの主要都市では経済的影響を考え、全面的ロックダウン(都市封鎖)に踏み切ることを躊躇し感染対策が後手に回ったこと、感染者・感染死者などの数字の増減に一喜一憂して防止策の強化・緩和を繰り返したことも景気の後退局面を招いた大きな原因とされている。
ASEAN諸国での景気後退はフィリピンに次いで2カ国目となるというが、どの国も不況には見舞われており、ASEAN全体が厳しい状況にあると言えるだろう。
政府は「状況は改善」「最悪は脱出」を強調
インドネシア中央統計局は10月初旬に2020年7~9月の第3四半期の国内総生産(GDP)が物価変動を除いた実質で前年同期3.49%のマイナスとなったことを明らかにした。これは前回の第2四半期に続けて2回連続でマイナスを記録したことになり、インドネシア経済が景気後退の局面に入ったことを示していることになる。
政府統計局のスリヤント局長は地元メディアに対して「今回の数字は前の第2四半期の数字ほど深刻ではなく、状況が改善していることを示しているといえる」と説明して悲観的な見方をする必要がないことを強調した。
またスリ・ムルヤニ財務相もオンライン会議で「インドネシア経済はポジティブ・ゾーンに向かっており、最悪の事態を脱出している」と述べて景気後退局面がすでに最悪状態から回復傾向にあるとの見方を示した。
スリ財務相はその上で、政府は今後製造業と貿易分野での回復に力を入れると表明、景気浮揚に向けた原動力とする方針を示した。