2019年4月、北京を訪問したベトナムのグエン・スアン・フック首相と中国の習近平主席(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

(譚 璐美:作家)

 ベトナムでは、11月12日から4日間にわたって第37回ASEAN首脳会議がオンラインで開催された。同時期にはASEAN+1など、東アジアや南シナ海に関連する複数の会議も開催された。議長国ベトナムが采配を振るった一連の会議では、各国の思惑が入り乱れる中、南シナ海の領有権問題にどこまで踏み込んだASEAN声明が出されるかで注目を集めたが、当初の予想通り、「南シナ海で状況をさらに複雑にさせる行動を避ける」必要性に言及しただけで、中国の軍事侵略を明確に非難するには至らなかった。

 今後、東アジアはどこへ向かおうとしているのか。ASEAN議長国であるベトナムの行方を占う。

2020年の成長率、東アジア・太平洋地域の新興国ではトップの予想

 今年、ベトナム経済はすこぶる好調だ。11月11日に開催されたベトナムの第14期第10回国会では、2021年の経済指標の目標が示され、国内総生産(GDP)成長率をプラス6%、1人当たりのGDPを約3700USドル(約39万円)とした。また医療保険加入率が約91%、貧困世帯率をマイナス1~1.5ポイントとするなど、順調な経済発展の様子を示している。

 世界銀行が発表した「世界経済見通し2020年6月版」でも、GDP成長率は東アジア・太平洋地域の新興国の中で最高の2.8%になると予測され、コロナ感染下で世界各国が軒並みマイナス成長となる中、ひと際目立つ好成績である。

 だが、経済面だけでなく、少し視点を変えて、ベトナムの世界情勢に対する分析と対策を知れば、印象もやや異なってくる。

 2019年11月、ベトナム国防省は国防白書『ベトナムの国防2019』を発表した。同白書では、「アジア太平洋地域は躍動的な経済発展の中心地として・・・重要な位置を占めるようになっている」ものの、「この地域は依然として、大国が激しい影響力競争を展開する場所であり、潜在的に多くの不安定要因が存在する」と警戒を示している。