(沖有人:スタイルアクト代表取締役)
私たちは不動産ビッグデータを用いて不動産マーケティングなどの事業を展開しているが、ビッグデータ自体は粗大ごみだと思っている。大量にデータを持っていることで有利になることなんてない。何よりも重要なことは、データから宝となるものを生み出せるかどうか。それを生み出した時に、初めてデータを豊富に持っていることがメリットになるのだ。
私が率いるデータ分析チームをトレジャーハンティング部という名称にしたのも、ビッグデータよりも宝探しの方が重要と考えているため。ビッグデータが典型だが、流行言葉にはゆがんだ期待が多く、株価上昇のためのIRネタになることも少なくないが、言葉の実態をとらえないと期待はずれで終わるだけだ。ちなみに、トレジャーハンティング部は、前田建設工業のファンタジー営業部に感化されて付けた。
過去20年で、インターネットが普及し、ストレージ(記憶装置)が安価になり、ビッグデータの蓄積が容易になったが、私たちはビッグデータといわれる前から不動産データをインターネット上から集めていた。データがあれば、自分たちの分析能力を活かせるからだ。
不幸にも不動産業界は「経験と勘と度胸」がまかり通る遅れた業界だった。そこに、不動産データを基に、「経験と勘」を裏打ちして、度胸の代わりに確率論で説明する市場を作ったわけだ。事業者向けは外向きには発表しにくいが、個人向けにはマンション購入を「資産性」(価格が下がりにくい)という視点で分析したデータを「住まいサーフィン」というサイトで無料会員制にて公開している。ここを見れば、私たちがビッグデータを活用してどのような分析をしているかが分かるだろう。
価値を生むのに分かりやすい例に、新築時の価格と中古時の価格を同一の住戸でマッチングさせたデータがある。「中古値上がり率」と呼んでいるが、このデータを分析すると、いろんなことが分かる。例えば、以下の様な例がある。
【分析例】
・都心の方が下がりにくい
・タワーの方が下がりにくい
・大手売主の方が下がりにくい
賃貸でも同じ分析をしており、同じ部屋同士の家賃の変動を「賃料変動率」と呼んでいる。賃料変動率が高いのは、稼働率が高いことが起因していることも分かっている。こうなると、賃料変動率から空室率を当てることができるようになる。このように、価値は組み合わせと分析方法によって生み出されているのだ。