「電子契約」とは、電子ファイルをインターネット上で交換して電子署名を施すことで契約を締結し、企業のサーバーやクラウドストレージなどに電子データを保管しておく契約方式を意味する。働き方改革による業務効率化に向けて導入する企業が一部見られたが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うテレワークの普及により、現在「脱ハンコ」の動きが加速している。本記事では、「電子契約」について深掘り、関連する法律の中身や導入のメリット、ポイントなどについて解説していく。

そもそも「電子契約」とは?

「電子契約」とは、書面ではなくインターネットや専用回線を用いて電子データで作成する「契約方法」を指す。リモートワーク推進に伴い、「ハンコレス化」、「ハンコ出社撲滅」や、紙資源や保管スペースの削減による「コストカット」の流れを受け、契約行為の電子化が現在進んでいる。

 日本は紙やハンコを使う文化が根強く、「契約書」という字面からも、「紙」や「印刷物」をイメージしがちだ。しかし、契約書とはそもそも「契約の内容にお互いが合意したことを証明する」ための書類なので、合意に達し契約を結んだことが証明できれば、必ずしも紙などで締結・保持しておかなければいけないものではない。

「電子契約」は税法や民法に必要な要件がある?

「契約書」が法律書類であることから、契約書には法的に満たしていなければいけない「要件」がある。電子契約書では、「税法」と「民法」に必要な要件があるので、それぞれチェックしていく。

●税法(税務上)の要件

 電子署名を利用することで、基本的には紙の契約書を電子化することができる。「電子帳簿保存法」では、税務申告に利用する証憑のデータを電子で保管するために、以下の要件を満たすことが必要と定められている。

・タイムスタンプの押印か、改変・削除防止の規則を整備する
・必要なときに即座に表示/印刷できる
・システムの説明書が備え付けられている
・日付・額相・相手先名といった条件検索できる

 これらの要件を満たさない場合、契約締結業務自体を電子化しても、税務上は契約書をデータのまま保管できず、紙でも保管しておかなければならなくなる。せっかくコスト削減、ペーパーレス化を進めても二度手間が発生するリスクがあり、電子化のメリットを十分活かせない。そのため、要件を満たすことが重要になる。

●民法の要件

 紙の契約書では、手書きの署名や印鑑(社判や個人印など)を捺印するのが一般的だが、これは、「契約者本人が自分の意志で作成したものである」と証明するために必要な行為だ。「電子契約」の場合、書面契約の「手書きの署名」や「捺印」に当たるのが「電子署名」である。民法上の契約書の要件を満たすには、この電子署名の利用が必須だ。

・電子署名とは
 電子署名は本人しか作ることができない。暗号技術を利用したプログラムを用いて作成した情報で、生成には「秘密鍵」という作成者本人しか持っていないものを利用する。電子署名が正規のものかどうかの検証のために「電子証明書」があり、民間機関が発行している。これを利用することで、誰が作った電子署名であるかを特定できる。なお、電子契約に際し、電子署名ではない署名(単に電子印を付したPDF電子ファイルなど)で代替しようとしても、文書の書き換えが紙と比べて容易にできてしまうため、要件を満たしているとはいえないので要注意だ。

「電子契約」には4つの法律が関わっている

「電子契約」を導入する上でおさえておきたいのが関連する法律だ。大きく分けて4つ紹介したい。

・電子帳簿保存法
 主に国税関係の帳簿を電子データとして保存する手段などを定めた法律。正式名称は、「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」。従来、企業や個人事業者が管理していた会計記録は、「紙」での「7年間保存」が義務付けられていたが、真実性や可視性の確保などの一定の保存要件を満たせば、帳簿書類を電子データで保存することができる。

・電子署名法
「電子署名」が署名や押印と同等の法的効力を持つことを定めた法律。民事訴訟法の「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する」という文言(第228条4項)に対応して、同法では、「電磁的記録であって情報を表すために作成されたものは、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名が行われているときは、真正に成立したものと推定する」(第3条)としている。正式名称は、「電子署名及び認証業務に関する法律」。

・IT書面一括法
 顧客保護の観点から、事業者に書面の交付や書面による手続を義務付けている法律について、「顧客からの承諾」を条件に、書面の代わりに「電子メール」といった情報通信技術を使って提供することができる、と定めた法律。IT化が進展する中で、書面の交付や手続を義務づけている各種の法律(証券取引法、割賦販売法、下請代金支払遅延等防止法など)が電子商取引の阻害要因にならないよう、電子的手段(電子メールやFAXなど)を利用することを認めた。正式名称は、「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律」。

・e-文書法
 財務・税務関係の帳票類や取締役会議事録など、「商法」(その関連法令をふくむ)や、「税法」で保管が義務づけられている文書を、紙だけでなく電子化された文書ファイルで保存することを認めた法律。「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」と「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」の総称。