「メンタルヘルス」不調者が職場で出たらどうするか
従業員のメンタルヘルス不調のサインに気づいたら、早急な対応が必要だ。厚生労働省の調査によると、業務上の心理的負荷が原因で精神障害を発症した、あるいは自殺したとして労災が認定された件数は増加傾向にあり、働く人の年間自殺者数は7,000人にものぼるという。
もし従業員がメンタルヘルス不調を伝えてきたら、「気づいてあげられなかった」とネガティブに考えるのではなく、「早期発見できてよかった」とポジティブに認識することが大切だ。では、メンタルヘルス不調の従業員への接し方について解説していこう。
●「メンタルヘルス」不調の社員への適切な対応方法
(1)就業を継続している従業員への対応
従業員・部下がメンタルヘルス不調になってしまった、または、メンタルヘルス不調の疑いがある場合、もっとも重要なことは「相手を否定せず、聴く姿勢で接すること」である。当事者からネガティブな気持ちの発言があった場合も、「励まし」や「叱責」は絶対にしてはならない。相手の気持ちを十分に理解すること、解決方法を一緒に模索すること、「自分は味方である」という「気持ちを伝える姿勢」が必要なのである。
相談を受ける中で、症状が比較的に軽いと確認できた場合には、「セルフケア」をすすめてみるのもよい方法だ。また、必要な場合は、担当業務を一時的に軽減したり、症状によっては、病院・クリニックの受診をすすめてみたりすることも有効だ。
(2)従業員が休職した場合の対応(休職中~休職後)
メンタルヘルス不調により、従業員が休職することになってしまうケースもあり得る。そういった場合の対応には、「注意すべきポイント」がある。
・休職中連絡は最低限にとどめる
従業員が休職することになってしまった場合、休職期間中は療養に専念できるよう配慮する必要がある。引き継ぎは最小限にとどめ、以降は業務に関する連絡はしないように心がけよう。連絡の頻度も最低限に抑え、1~2ヵ月に1度、メールや書面によるやり取りが望ましい。また、休職者とやり取りする連絡窓口は1人に限定するのがよい。
休職中の従業員に伝える情報については、休職中の経済的不安や、将来に対する不安をできる限り軽減できるよう、傷病手当金制度や復職手順についてなどを伝えよう。
・職場復帰に向けた対応
メンタルヘルス不調により休職した従業員が、円滑に職場復帰し、就業を継続するためには、衛生委員会といった組織において調査、審議し、職場復帰支援プログラムを策定する必要がある。あわせて、体制整備やプログラムの組織的かつ継続的な実施で、従業員への支援を行う。
主治医によって「職場復帰可能」と判断されたら、すぐに職場復帰を決定するのではなく、実際に業務につける状態であるかどうかについて、産業保健スタッフを中心に情報収集と評価を行おう。産業医面談を設定することも有効だ。復職に際して、産業保健スタッフや復職する従業員、その管理監督者、人事労務スタッフを含めて、勤務時間の配慮や職場環境の調整が必要かどうかなども十分に話し合ったうえで、「職場復帰プラン」の作成を行おう。
・従業員が復職を果たした後の対応
復職後、該当の従業員の同僚に対してはどの程度まで情報を共有するのかを、事前に話し合っておいた方がよい。また、職場復帰後は、時短勤務や業務軽減などの措置をとり、徐々に通常業務へ戻す期間が必要となる。管理監督者は、同僚に対して勤務上の配慮事項を明確に伝え、職場復帰した従業員がスムーズに働けるよう配慮し、再休職が必要とならないよう適切なフォローを行うことが大切だ。
「メンタルヘルス」へのケア・対応を行う際に最も重要なことは、「適応障害やうつ病などメンタルヘルスの不調の回復期は、常に快方へ向かうといったものではない」という認識をもっておくことだ。メンタルヘルス失調におちいってしまった従業員は、調子のよい日と悪い日を繰り返しながら、少しずつ安定に向かう。調子が良く見えていても次の日にはまた崩れてしまう、といったこともある。それが「普通」である、ということをきちんと認識して対応しよう。
新型コロナウイルス感染拡大を機に、テレワークを導入する企業が増えていきている。メリットがある一方で、デメリットもあり、「メンタルヘルス」の不調に陥りやすいのもその一つだ。「メンタルヘルス」の不調は、企業や上司からの支援だけでなく、セルフケアでも防止することができる。ただ企業は従業員任せにすればいいというわけではない。従業員が適切な対策を行うために、企業側は「ストレスとメンタルヘルスについての基礎知識」、「ストレスの気づき方」、「セルフケアの種類」など、セルフケアに関する情報を発信していくことが求められる。企業がきちんと教育を行うことで、従業員は心身の異変が起きた際に早期に察知できたり、自分自身で対策を行えたりできるようになる。従業員それぞれが主体的にセルフケアを実践できれば、エンゲージメント向上だけでなく、生産性の拡大にもつながっていくだろう。
著者プロフィール HRプロ編集部 採用、教育・研修、労務、人事戦略などにおける人事トレンドを発信中。押さえておきたい基本知識から、最新ニュース、対談・インタビューやお役立ち情報・セミナーレポートまで、HRプロならではの視点と情報量でお届けします。 |