岩手医科大学教授の櫻井滋氏

 連載「実録・新型コロナウイルス集中治療の現場から」の第20回。台風や地震など災害時の避難所における感染対策はどこまで進んでいるのか? 第一人者・櫻井滋・岩手医科大学教授を迎え、その難しさと現状を讃井將満医師(自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長)が訊いた。

讃井 9月に発生した台風9号、10号では、九州・沖縄地方の多くの方が命を守るために避難所に避難しました。その際に危惧されたのは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大でした。台風や地震など自然災害が多い日本では、避難所の感染対策は非常に重要なテーマです。そこで、日本環境感染学会災害時感染対策委員会委員長の櫻井滋先生に、避難所の感染対策の難しさや課題についてお聞きしたいと思います。

櫻井 岩手医科大学附属病院で院内感染対策をずっとやってきた私が避難所の感染対策に関わるようになったのは、東日本大震災がきっかけでした。被災地で感染症をできるだけ出さないようにしなければいけない――本来は保健所の仕事なのですが、保健所の職員の多くも被災されていた状況でしたので、被災地に向かいました。発災3日後の3月14日のことです。まず土地勘のある大槌町に行き、その後岩手県の海岸沿いに北から順番に南下して避難所をチェックして回りました。

 被災者はすでに避難場所(一時避難場所。高台など、とりあえず命を守ることができる緊急避難的な場所)から避難所(指定避難所。公立学校の体育館や公民館等、一定期間生活できる場所)に移動していました。その避難所には、感染対策ができる人がほとんどいませんでした。これは現在も今後も同じですが、段取りを決めていても大災害時には段取り通りに動かない可能性が高い、だとしたらさまざまな連携が絶対に必要だ、ということをまず考えさせられました。

櫻井滋(さくらい・しげる)氏
岩手医科大学医学部教授、岩手医科大学附属病院感染制御部長。金沢医科大学医学部卒業後、沖縄県立中部病院内科呼吸器科・集中治療部、米国ワシントン大学呼吸器・集中治療医学部門などを経て岩手医科大学へ。現在、日本環境感染学会災害時感染対策委員会委員長なども務める感染制御の第一人者。