(PanAsiaNews:大塚智彦)
フィリピン中部ネグロス島の西部を占める西ネグロス州で8月17日、医療支援活動家で人権活動家のフィリピン人女性が正体不明の男性に射殺される事件が起きた。
地元警察が捜査中だが、この女性は現地の人権状況などを訴える裁判で証言する予定があったといわれ、犯行の背景に地元有力者、あるいは治安当局の関与があるのではないかとの疑惑が取り沙汰されている。
フィリピンでは権力者や当局、富裕層による人権侵害事案に果敢に取り組む活動家の口封じとみられる襲撃事件や射殺が後を絶たない。ドゥテルテ大統領が就任した2016年6月以降だけでも180人以上が殺害されたとの統計もあり、フィリピン社会に潜む深い闇となっている。
背中に3発の銃弾
8月17日午後6時45分ごろ、西ネグロス州バコロド市マンダガランの道路を自宅に向かっていたザラ・アルバレスさん(39)は背後から近づいて来た男性から突然銃撃を受け、その場に倒れた。ザラさんは背中に3発の銃弾を受けてほぼ即死状態で、犯人はそのまま逃走した。
ザラさんはシングルマザーで教師として働く一方で医療衛生プログラムを進める非政府組織(NGO)でも働き、地元市民のコロナウイルス対策などに協力していたが、以前はフィリピンの人権団体「カラパタン」のネグロス支部事務局長を務めていた。
「カラパタン」はフィリピンを代表する人権団体で1995年に設立され、一般市民の人権擁護、人権被害者の支援を続けている。
フィリピンでは7月3日に、ドゥテルテ大統領が任命した組織がテロリストと認定した個人や団体に対して「令状なしで最長24日間の拘束や90日間の盗聴、監視を可能にする」ことなどを盛り込んだ「反テロ法」が成立した。
この時「カラパタン」は、「反テロ法」が政権や治安当局による恣意的に運用されて人権状況が危機的になると反対・抵抗し、「ドゥテルテ大統領が目指しているのはマルコス大統領の独裁政治そのものである」と、ドゥテルテ大統領への厳しい批判を展開した組織でもある。