この間、社会にいったい何が起こったのでしょうか。それは、「大衆消費社会」から「金融社会」への転換だったと考えられます。

 アメリカにおいては、もっとも富が多い上位1%が家計の富の40%近くを保有しています。イギリスとフランスでは、富の不平等性は、アメリカやロシア、中国ほどには上昇していません。両国ともに不動産価格が上昇し、そのためミドルクラスの人々の資産が増えたからです。しかしその反面、不動産を所有できない貧しい人々の資産価値は、相対的に低下しました。

【図2】イギリス、アメリカ、フランス、中国、ロシアの上位1%の富裕層の人々が占める富の比率(出典:Gabriel Zucman, “Global Wealth Inequality”, Annual Review of Economics , Vol. 11, 2019, p.124.)
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金融化した社会の不平等性

 こうした国々では、GDPに占める金融部門の比率が非常に高まっています。金融部門の成長の恩恵にあずかれるのは、莫大な金融資産を持つほんの一握りの富裕層か、金融ビジネスで莫大な報酬を受け取れる一部のエリートだけです。すなわち、GDP成長率がいくら高くなっても、一般の人々の生活が豊かになるとは限らない時代に突入しているのです。GDPの上昇とより豊かな社会の実現はリンクしなくなってきているのです。

 しかも、金融部門の発展とともに、能力がある人間が多くの所得を獲得できるというネオリベラリズムが隆盛を極めたので、人々の収入の差は、より大きくなってしまったのです。

 金融の自由化と規制緩和により、資本は簡単に国境を越えるようになりました。それは金融ビジネスの発展には好都合ですが、同時に、人々の所得格差を広げることにもなっているのです。

 富の偏在を解消するために、社会には租税制度や社会保障制度といった所得再配分機能があるはずでした。ところが、この機能に期待しようにも、大企業や大金持ちはタックスヘイヴンを利用するなど大規模な税金対策をしたりして、期待されるほどの税金を納めてくれません。代わりに中小企業やミドルクラスの人々が税負担の主力となるようになりましたが、税負担が大きすぎ、世の中からだんだんとミドルクラスの人々が消失しています。まさに今はそんな状況です。こうして人々の所得格差は広がっていったのです。

 1970年代までは、世界はミドルクラスの拡大により、より平等な社会の構築に成功しました。しかし現在では、ミドルクラスは減少し、貧しい人々が増えています。社会の「金融化」は今後もますます続くでしょうから、格差は拡大の方向に向かっていると言えます。もしかしたらわれわれは、近代社会繁盛以降、最も不平等な世界の誕生に直面しているのかも知れません。