『体温を下げれば眠くなるわけではない」

 ここで、「いやいや待てよ。でもマンガや映画で、雪山で遭難したパーティの一人が眠りそうになって、同僚に『眠ったら死ぬぞ!』って怒鳴られる場面があるよね? あれは体温が下がったから眠くなったんじゃないの?」と考える人もいるかもしれません。

 確かに状況からはそういう説明も可能かもしれません。しかし医学的に考えれば、「極寒の中、栄養も欠乏しており、体はエネルギーの消費を最小限にするため体と脳の機能を低下させていき、最終的には火が消えるように死に至る」ということでしょう。そんな緊急事態で、脳がメラトニンをバンバン出して入眠を促している、とはやはり考えにくい。

 そもそも、みなさんが眠気を催す状況を思い起こしてみると、体温が下がっているケースはむしろ少ないのではないでしょうか。

 たとえば、「長い冬が終わって春になり、天気のいい日に公園でひなたぼっこしていたら、うたた寝した」とか、「冬の寒さが厳しい日に、電車に乗ったら座席下のヒーターでお尻がポカポカ暖かくなり、思わず寝落ちした」という経験はありませんか?

 これらのケースでは、いずれも体温は下がっておらず、むしろ上げているのに眠気を催しています。結局、「体温を下げれば眠れる」という単純な話ではないのでしょう。

「でも、入眠前にお風呂にはいれると良く眠れるよ」という意見は当然あると思いますが、それはおそらく入浴することによってリラックスし、副交感神経が優位になることによって眠くなるのでしょう。

 それはそれで十分意味があります。当たり前のことではありますが、1日の終わりにリラックスすることはスムーズな入眠にとって、とても大切なことです。

 唯一確かなのは、「体温下げなきゃ」とか、「メラトニン出てるかな」とか、「まずい、一番いい時間帯にお風呂に入りそこねた!」などと、湯冷めした体で悶々としていたら、快い睡眠が訪れる日なんてまず来ない、ということです。

 そして最後にもう一点。「若いころ、あんなに良く眠れていたのは何だったんだ?」とため息まじりにいぶかしんでいる人もいるかもしれません。それはやはりメラトニンの分泌量が関係しています。

 グラフの通り、若い時は大量に分泌されていたメラトニンは、加齢とともに激減するのです。

メラトニンの分泌は加齢とともに激減する

 高齢者では若い時の数十分の1しか分泌されません。ですので、その乏しいメラトニンを最大限利用するために工夫するのも良いのですが、「絶対的なものではない」と割り切った方が精神衛生上いいでしょう。睡眠に影響を与える因子は、他にも大切なものがいくつもあるのです。次回、詳しく解説いたします。