EY連載:大変革時代における組織・人事マネジメントの新潮流(第7回)

「日本の終身雇用が崩壊しつつある」といわれて久しい昨今、多くの日本企業で、これまでの日本的人事制度、いわゆる職能(ヒト)ベースを捨て、欧米型の職務(ジョブ)ベースの人事制度への転換を図りつつ、グローバル共通の人事制度の枠組みを作ろうという動きが見られます。職能ベースに慣れている日本人にしてみればとても大きなチェンジです。今回はこのチェンジをどう実現するのか、「制度設計」と「チェンジマネジメント」の2つの側面から解説していきたいと思います。

今回は本気!? 人事制度は「職能(ヒト基準)」から「職務(ジョブ基準)」へシフト

 日本企業の人事制度は独特です。新卒一括採用・終身雇用を背景に構築された「職能(ヒト)ベース」の人事制度の中では、極端にいえば、「ヒトの能力は時間とともに伸長する、基本的に不可逆なものである」という前提のもと、能力の伸長度合いに合わせた評価・昇給を積み重ねていきます。欧米は「職務(ジョブ)ベース」です。ポストのひとつひとつに職務定義書(Job Description:以下、JD)が定義され、そこに記載された内容をまっとうできたかどうかで評価されます。職務ベースの場合、原則として個々のJDに値札(報酬)が連動しており、原則的にはJDの内容が変わらない限り、報酬額も変わらないというロジックです。グローバルで人材を管理しようと考える上で、この2つの考え方の差異は大きな障壁となります。従って、いくつかの日本企業は、日本的な制度からグローバル基準の制度へのシフトを図ろうとしているのです。

 ご存じの通り、これまでもさまざまな企業で、職能から職務へのシフトは実施されてきましたが、完全に職能の世界から脱却できた会社はひと握りです。ただし、今回は「待ったなし」。日本の労働人口は減少の一途をたどり、すでに「人材はそう簡単に採れない」ということが定説になりつつあります。日本人が国内で日本人とだけポストを争っていればよかった時代は終わりを告げました。たとえ日本企業であっても、日本人が外国人を相手に、グローバルでポストを奪い合う時代に突入しているのです。そうなれば、日本だけが“ガラパゴスの制度”(=職能ベース)を使っているわけにはいきません。「誰がそのポストにふさわしいかを、職務ベース、かつグローバルで横串を通して比較できるようにしなければならない」というプレッシャーは日増しに強くなっているといってよいでしょう。

 職務ベースへのシフトは、なにもグローバル化という文脈だけで語られるものではなく、年功による賃金カーブと実際の能力伸長との乖離に対するひとつの「解」としての側面もあります。前述した「ヒトの能力は時間とともに伸長する、基本的に不可逆なものである」という考えは、日本企業の中に長年横たわってきた一種の神話のようなものであり、実際には年長者よりも優秀な若年者は大勢いるわけです。ここに市場原理を持ち込まないと、優秀者から離れていってしまうという事態になりかねない。そういった意味合いからも職務ベースへのシフトを考えざるを得なくなってきたというのが実際のところでしょう。

 前回(第6回)の「グローバル人材マネジメントの実現に向けた必修科目『ポリハー』とは何か」の文中では、「A社」を例に挙げ、「グローバルで人事制度のハーモナイズを志向する中で、課長クラス(VP)以上層については、職務ベースのグローバルグレードを導入し、当該グレードに基づいて人材管理を行うことを決めた」と書きました(「ポリハー」は「ポリシー・ハーモナイゼーショ」ンの略)。本稿では職務ベースのグローバルグレード導入に関するイロハを見ていくことで、グローバル人事制度設計の勘所をお伝えできればと考えています。