制度設計の視点とは。見るべきは「今」ではなく「将来」

 一般的にグローバルグレードを設計する際には4つのステップを踏みます。最初のステップは「サンプルポストの特定」です。数百・数千のポストすべてに対して職務分析を行うとなると多大な工数・期間が必要となってしまいます。従って、多くのケースではサンプルポストに対してのみスコアを算出し、それらをベンチマークにして、残りのポストを相対的にプロットするのが一般的です。

図1. グローバルグレード設計のステップ

 人事部だけでJDを作成するのは難しく、多くのプロジェクトでは、経営陣や現場サイドにインタビューをしながら仕上げていくことになります。この際のポイントは「今」目線で語らないこと。「現任者がやっていること」と「本来そのポストで求められていること」をごちゃ混ぜにしないよう、常に「将来」目線で記載していくことが重要です。

 また、先述のA社では、実際にスコア化され、ポスト間の上下関係が明らかになってくると、「やっぱり、営業部長よりも経営企画部長のほうが上じゃないか」とか、「総務部長と生産管理部長が同じグレードというのは納得いかない」とかいった話が出てきました。職務分析ツールを使えば、ある一定のロジックに従ってスコアを算出することはできますが、万能というわけではありません。各役員はご自身の管掌範囲のポストの位置付けを引き上げようとしがちで、ツールによって機械的に序列化されたものがそのまま最終版となることはまずあり得ません。その会社固有の状況や歴史的背景等を踏まえ、ある程度の「あそび」を持って(図1でいうところのステップ2と3を行ったり来たりするような形で)最終化していくことをおすすめします。

チェンジマネジメントの視点で、この大きなチェンジをどう伝えるか

 これまでは能力をベースになされていた人材管理が、「職務(ジョブ)ベース」でなされるようになる。社員にとってみれば、これまで信じていた尺度がガラリと変わる大きなチェンジです。人事制度の設計も大事ですが、社員にこのチェンジをどう受けいれてもらうかを考えるのも「職能→職務」のシフトを成功させる重要な要素です。このような変革を効率良く成功に導くためのマネジメント手法を「チェンジマネジメント」と呼びます。

 当然、会社の中には変革を好まない保守的な人も存在します。このチェンジによって自分が損をするのではないかと考える人もいるでしょう。ひょっとしたらこのような保守派の反発が必要な変革の妨げとなってしまうかもしれません。従って、「職務→職能」のシフトによって、どのような層がどのように感じるかを想像し、会社の存続・繁栄のためには職務ベースへのシフトが不可欠なものであるということを、各層ごとにしっかりと伝えて納得させる必要があります。各層(等級や役職)ごとの新制度説明会やワークショップ、メールを使ったNews letterの配信など、いくつもの施策を組み合わせてきめ細かなチェンジマネジメントを実施することで、社員へ制度の裏側にある会社の想いを伝え、コミュニケーションを図っていくことが重要なのです。

図2. A社における変革に対する感じ方

 会社と社員の間で想いのすり合わせができない限り、その人事制度・人材マネジメントがうまく機能することはありません。これから「職能→職務」のシフトを検討するといった際には、「どのように人材を管理するか」という制度設計の視点とともに、そこに込められた「会社としての想いをどのように伝えていくか」というチェンジマネジメントの視点も合わせ、両面から検討を重ねることが肝要です。これが成功の鍵だといえるでしょう。

著者プロフィール

EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社
ピープルアドバイザリーサービス ディレクター タレントチームリーダー
高柳 圭介

IT系・会計系ファームを経て、現在はピープルアドバイザリーサービスにてタレント領域の責任者を務める。専門領域は、グローバルタレントマネジメント戦略策定、要員・人件費計画策定、プロフェッショナル人材育成など。組織・人事領域全般の幅広いプロジェクト経験を有し、人材戦略策定からIT導入までワンストップでおこなうコンサルティングが持ち味。2014~18年にかけてはタイを拠点に、東南アジアの日系企業向け人事コンサルティングに従事した経験から、当該地域における人材マネジメントにも明るい。

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