(川島 博之:ベトナム・ビングループ、Martial Research & Management 主席経済顧問)
日本で大きく報道されることはないが、世界が新型コロナウイルス問題に揺れる中で、南シナ海において緊張が高まっている。
2020年4月2日に中国の巡視船がベトナムの漁船に体当たりして沈没させる事件が発生した。近くで操業していたベトナムの漁船が救助に駆けつけたが、その中の2隻が巡視船に拿捕されて乗員が一時拘束された。幸い死者は出なかったが、ベトナムは漁船1隻を失い、拿捕された漁船も船内の機器を破壊された上に漁具を没収された。
4月13日、中国新華社は空母「遼寧」などが南シナ海で訓練を行ったと発表した。空母セオドア・ルーズベルトで乗務員に新型コロナウイルスの感染が広がったことから、米国海軍の太平洋での影響力は低下している。その隙をついて中国海軍は南シナ海でのプレゼンスを高めようとしている。
4月18日に衝撃的な発表があった。中国は海南省の三沙市に「西沙郡」と「南砂郡」を設置すると発表した。西沙諸島は「西沙郡」に、南砂諸島は「南砂郡」に含まれる。問題になっている島々を自国の行政区画に組み込んだ。
また、5月1日から8月16日まで南シナ海での漁獲を禁止すると一方的に発表した。このような措置は1999年以降中国が毎年発表していることだが、新型コロナ問題で世界が揺れるこの時期に、平然と東南アジア諸国の神経を逆撫でするような発表を行った。