今回のコロナ感染症が現在の社会システムに与えるインパクトは、このように大きい。今後の感染症対策を含めて、われわれは、既存の制度やその前提にある発想をリセットし、新たな政策や制度のデザインに取り組んでいかなければならない。その改革は一時的に多くの痛みを伴うかもしれないが、わが国に新しい可能性を拓くはずである。
では、これからの社会をどのようにデザインすればよいのか。大規模な人の国際的移動が行われる時代、感染症を含め多数の国民の生命を救うために、国家の果たす役割は重要である。公権力を行使する場合にせよ、経済活動を維持するために財政出動を行う場合にせよ、迅速で強力な国家の行動が期待される。
しかし、そのためには、国家が国民の生活や行動に対して強い統制力をもつことが必要であり、それは国民の権利にとって脅威となりかねない。国家による保護と国家による権利侵害の可能性とをいかにして両立させることができるか。これからの国家の“民主主義”のあり方が問われているといえよう。
新しい民主主義を形作るのは新しい情報制度
私自身は、この問題を解く鍵は、国における情報制度にあると思っている。現代の福祉国家において、健康で文化的な生活をすべての国民に保障し、国民各自に最適の行政サービスをきめ細かく提供するためには、国家は、国民についての詳細な情報を保有せざるを得ない。また、社会の状況についても詳細なデータを収集し、それを活用することによって、安全で効率的な社会を実現することができる。
しかし、その情報を、具体的にだれが保有し管理するのか。また、情報の主体である国民が自己情報の使われ方について、どのようにどの程度コントロールできるのか。国家に不信感をもつのではなく、信頼できる国家を作ることを考えるべきであろう。
エストニアや北欧諸国のように、すでにそうした情報化時代の民主主義を実現しようとしている国もある。それらの国の考え方を学びながら、これからのわが国の基盤となる政策や制度を検討することが、コロナ後の社会を設計していくためには必要だ。