大陸からの観光客で溢れるマカオ

(姫田 小夏:ジャーナリスト)

 ポルトガルの植民地だったマカオは1999年に中国に返還され、現在は香港同様に一国二制度に基づく中国の特別行政区となっている。2020年4月20日、マカオは『2020年財政年度施政報告』を発表した。218ページにわたる分厚い報告書のなかで繰り返し出てくるのが、「横琴(ハンチン)新区」というキーワードだ。マカオに隣接する広東省珠海に建設された横琴新区は、「マカオと中国の一体化」の象徴だ。

 日本でも一部の金融関係者が横琴新区の動向に目を向けている。というのも、昨年(2019年)に香港で大規模化した抗議デモ以来、世界の金融機関が「香港は安全なのか」と疑うようになったためだ。

「次なる香港の代替地はどこか」――。昨年はこれをめぐって、さまざまな憶測が飛び交った。シンガポールなどが候補地として挙がるなか、昨年10月、中国證券報が「中国政府はマカオ証券取引所の開設について研究を開始した」と報じると、にわかに“マカオ代替論”が注目されるようになった。

 筆者は今年1月、訪問中の香港で、貿易業を営む香港人のZ氏にその話を振ってみたが、そんな議論は「ちゃんちゃら可笑しい」とばかりに次のように一蹴されてしまった。

「マカオが香港の代わり? 笑ってしまう。50万人程度の人口しかなく、車も通行できないほどのあんなに狭い土地で、証券取引所など築けるわけがない」

 香港人のプライドは理解できる。狭いと言われる香港でさえ、札幌市に匹敵する1100平方キロメートルの土地がある。だが、マカオの面積は30平方キロにも満たない。しかも、ジャーディンマセソン、HSBC、タイクーなど世界中から集まった財閥や金融機関が、英国統治下の174年にわたって今の香港を築き上げたのである。その歴史と経験の蓄積からすれば、香港人が「香港の地位は不動」だと信じるのも無理はない。