代替医療は患者の望む未来を提供する

 エビデンスに基づく医学は一般的に「こういう確率でこうなります」としか言ってくれませんが、代替療法は「あなたはこの理由でがんになったのだから、こうすれば治る」ときっぱり語ってくれます。しかも代替療法の多くは「副作用がない」と宣伝するものが多い。

 最近ではひどい副作用のイメージが根強い抗がん剤治療も進化し、苦痛を和らげる治療も増えているのですが、例えば抗がん剤治療の対象となる患者さんが、事前に医師から「○○という副作用があるかもしれませんが、80%の可能性で大丈夫です」と説明され、その○○が患者さんにとってとても恐ろしいものだったらその説明をどう捉えるでしょうか。患者さんの多くは「20%のほうに入っちゃったらどうするの?」と思ってしまうんじゃないでしょうか。でも、医師は事実を正確に伝えなければならないがゆえに、100%を保証してあげられない。それが疫学に基づく考え方だからです。

 それに対して代替医療は、これが原因だからこれを取り去れば治るといった、非常にわかりやすいストーリーを提供してくれ、そのストーリーの先には患者さんの望む未来がはっきりと示されているのです。標準医療と代替医療の問題は、それぞれがどのようなストーリーを提示しているかで読み解くと、病むことについての違った世界が見えるはずで、その読み解きは「生きることとはどういうことか」という哲学的な問いにつながっていくはずです。

磯野真穂/人類学者。専門は文化人類学、医療人類学。著書に『なぜふつうに食べられないのか―拒食と過食の文化人類学』(春秋社)、『医療者が語る答えなき世界―いのちの守り人の人類学』(ちくま新書)、宮野真生子との共著に『急に具合が悪くなる』(晶文社)がある。(撮影:URARA)

 また、その生存期間がどういう生活になるのかも患者さんの判断の基準になるでしょう。私だって、副作用の苦痛に耐え忍んで生きる6年と、自分の希望をよく聞いてもらって苦痛を和らげてもらいながら生きる5年以下なら、5年以下を選ぶかもしれません。でも医療の世界では、その期間を幸せに生きられるかどうかを問うことなく、数字に表れる結果だけで説明しようとする。それでは患者さんの説得には足らないように思います。