イタリア・セリアテで新型コロナウイルス感染症で亡くなった女性の棺に祈りをささげる聖職者(2020年3月28日、写真:ロイター/アフロ)

(酒井 吉廣:中部大学経営情報学部教授)

政治家の仕事は決断力と説明力

 3月23日、小池百合子・東京都知事は都市封鎖の可能性について言及した。同25日には「感染爆発 重大局面」と説明し、会見で知事に臨席していた医師(恐らく都の職員か委託者。実際に患者を診ているとのこと)が「感染者の80%は症状が軽いが、20%は入院が必要、全体の5%は症状の進行が早く集中治療室に入らない(人工呼吸器を付けない)と助けられない」と話した。ようやく事実を率直に伝える医師が都知事とともに登場したという印象だった。いずれにせよ、都知事の記者会見は新型コロナウイルスに対する都民および国民の危機感を一気に醸成した。

 小池都知事の発言は、2月27日に「3月2日から春休みまで全国の小・中・高や特別支援学校の休校」を要請した安倍首相、3月19日に「大阪と兵庫間の移動自粛要請」を訴えた吉村大阪府知事とともに、世論の反発を予期しつつも国や自治体のリーダーとしての責任を全うするために行ったという意味で、勇気あるものだと評価されるべきではないだろうか。

 小池都知事の発言については、安倍首相や吉村府知事が批判されたのと同じく、都民の不安を煽ったなどの批判が出ている。確かに、スーパーマーケットなどで保存の効く食品が売り切れるといった反応はあった。ただ、イタリアやスペインにおける感染者と死者の急増や、米国でも特に感染者数の増加が著しいニューヨーク州の状況を見れば、その決断は全く間違っていないことが分かる。

東京がニューヨークの後追いとなる可能性

 小池都知事の一連の記者会見は、3月7日にニューヨーク州全域に非常事態宣言を出した後、50人、100人、1000人と1日当たりの増加数自体が日々増えていく中で、同州のクォモ知事が説明してきたものとほぼ同じだ。

 ニューヨーク州の場合は、都市封鎖前日でのデータでは、感染者の18%が入院の対象となっていて、そのうちの38%が20~54歳だった。新型コロナが命に危険のあること、若者は高齢者より免疫力が強いから悪化症状に陥らないという思い込みは間違いだということも分かった。同じく19日には、感染者数が4152人と前日比ほぼ倍増近くになった。

 そして、翌3月20日、クォモ知事は都市封鎖を宣言した。同日の感染者数は7102人と前日の1.7倍強、非常事態宣言を出した同7日の90倍となった。また、直近3月27日の感染者数は4万4635人と、都市封鎖日の6倍以上となっている。まさしく「感染爆発」が「重大局面」に入ってしまったのである。

 これが、小池都知事の記者会見の意味するところだと考えられる。ここ1カ月間のニューヨーク州の数字の変化を見れば、現在の東京に対する都知事の評価は、決して大袈裟でも何でもないと言える。