Q4.使いこなすにはそれなりの組織体制が必要なのですか?

 組織体制以前に、データを扱える人材と、データに対する組織の成熟度が必要です。内製化しないのであればマニュアル・ガイドの類は必ずついてきますし、自社で作る場合は担当者が理解しているはずですので、導入すればひと通りのことはできるでしょう。他方でデータに振り回されないこと、つまり、テクノロジーが出してきた答えを鵜呑みにせず、「こういう切り口から考えるとより良い答えが得られるのではないか」「データはそうだが現実としてはこういう因子も考慮すべきだ」といった形でデータを思考の1材料として扱える人材や組織風土を整えてゆくことが重要になります。

 加えて、たびたび問題になるのが「個人情報・プライバシー問題」です。データの使途は昨今劇的に広がっており、また、データ取得方法についても多くの新たな手法が生み出され続けているため、規制の類もその変化に合わせて流動的に進化し続けています。「法的に問題がない」ことはもちろん、グレーゾーンに関しても「サービスが提供されているから問題がないと思った」と責任転嫁するのではなく、情報のクリーンな使途をデザインできる成熟性も、今後は各組織に求められるようになると考えられます。

Q5.パッケージやソリューションはどうやって選べばいいですか?

 既製品を導入する場合、まずは当たり前ですが自社の取り組み目的に合致したものを選択しましょう。最近はSaaS(クラウドソフト)が主流ですので、多くのベンダーは「あれはできない・これはできない」と言わず、基本的に「なんでも対応できます」と言いますし、事実、プログラムを書き換えれば多くのニーズに対応可能です。ですが、既製品を導入することの一番のメリットは導入スピードの速さにありますので、初期設定に多くの変更を要する選択は避けたほうが無難です。

 また、自社の基幹系情報システム(ERP)との連携は、初期導入のスピードアップのためだけでなく、突然のサービス停止リスクに備えるうえでも重要になりつつあります。リクルートワークス社によれば人事系テクノロジーは近年プレーヤーの入れ替わりが激しくなってきている(2年で8割が入れ替わった領域もある)そうで(※1)、導入サービスがいつ停止してもおかしくないのが現状です。そうだとすると、導入サービスのためにわざわざ情報を用意していたのでは別サービスへの乗り換えも難しくなってしまいますので、できれば長く使い続ける想定のERPに合わせた形で動いてくれるものが望ましい、といえます。

Q6.何年先まで考えておけばいいですか?

 現実的なところでは3年もしくは5年程度でしょう。近年、クラウドベースでのシステム開発が増えていることで、導入や拡大は比較的短期間に実現できるようになってきました。このため、一旦システムを入れて結果を評価し、調整・修正を加えるアジャイル型のアプローチを前提とすると、おおよそ3カ月や半年程度もあれば1評価サイクルが完結し、1年も繰り返せばそれなりの完成型まで行けることになります。ですから1年ごとに翌年計画を立てるアプローチも取れなくはありませんが、1領域を1年で完成し、翌年は別領域を……とパッチワークのような取り組みになりがちな感は否めません。

 他方、システム開発のスピードは速くなっているとはいえ、コンセプト段階から上市するまで1年~2年かかることも多いのが実情です(「1年後にこんな機能をリリースします」という計画は、1年半や2年後くらいまで遅れることがよくあります)。別の言い方をすると1~2年先は技術的なロードマップが描かれていることが多い、ということでもありますので、このあたりの技術進歩を前提に置き、3年後にどのような状態を目指すかを考えておくのが妥当な範囲といえます。

 そこから先、例えば10年先を考えることも決して無駄にはなりませんが、世界の情報の9割がこの10年で生まれている(※2)ことからもわかるように、日進月歩の技術領域の「10年」はとてつもなく長い年月ですので、長期計画に時間を掛けすぎることはあまり得策とはいえません。

Q7.結局、何が大切なのですか?

 取り組みをスタートさせることです。日々進化する領域ですから、待てば明日にでももっと便利で簡単なツールが出てくるかもしれません。あるいは導入が簡単なのであれば実績に裏付けられた「安心な」ソリューションが選ばれるのを待ってから、という判断もあるかもしれません。技術的な側面から「やらない理由」はいくらでも出てきます。

 しかし技術的なキャッチアップはすぐにできたとしても、それを自社環境に合わせる(自社においてはAという要素よりもBという要素のほうが効いている、などの探索をする)ことや、あるいはデータを扱うことが自然な組織環境を醸成しデータに踊らされずにデータを使って議論していくことは、一朝一夕にはできません。

 幸いなことに規模や機能の拡張にひと昔前ほどの苦労は不要ですし、小規模でもまずは始めてみて、テクノロジーやデータに関する組織知を蓄積してゆかれることを推奨します。

著者プロフィール

EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社
ピープルアドバイザリーサービス シニアマネージャー
吉田 尚秀

医学部を卒業後、外資戦略コンサルティングファーム、外資組織人事コンサルティングファーム等を経て現職。組織人事コンサルタントとして国内外企業のタレントマネジメントや人事評価・報酬等の仕組み設計支援に数多く従事。分析的・科学的アプローチに精通したバックグラウンドを豊富なコンサルティング経験と掛け合わせることで人事領域におけるビッグデータやAIなどの先端技術活用をリードしている。第3回HRテクノロジー大賞(経済産業省後援)統合マネジメントサービス部門優秀賞受賞。

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