EY連載:大変革時代における組織・人事マネジメントの新潮流(第5回)

 HRテクノロジーという言葉も定着しつつありますが、HRDX(Digital Transformation=デジタルトランスフォーメーション)のご支援をしていると、多くの企業で似たような誤解が見られたり、同じような質問を受けたりします。そこで本稿ではHRDX関連記事の番外編として、HRでのデータ活用における基本的な事項をQ&A形式で紹介し、これまで本領域に触れたことがない方でもわかるようになるべく平易に解説します(内容・データは全て本稿執筆時点のもの)。

Q1.Digital Transformationの略がどうしてDTではなくDXなのですか?

 簡単に言えば「ディーティー」より「ディーエックス」のほうが発音しやすいからです。言いやすければ「T」でも構わないわけで、例えばHR Transformationの略称は単純にHRTです。「X」で言葉を省略するには大きく2つのパターンがあり、ひとつは発音が近い時、例えば「ex-」で始まる言葉の省略に使い、もうひとつは「cross-」や「trans-」といった「交差する」という意味の表現部分を省略する時に使います。後者ルールでtransformationはXformationと書けますから、発音も考えてDXとしているわけです。

 余談ですが、「Christmas」を「X'mas」と書く理由の方がもう少し深みがあります。気になる方はぜひ調べてみてください。

Q2.AIはヒトより優秀なのですか?

 そもそもAIとは何かという問題もありますが、現在広義にAIと呼ばれているものは、与えられた条件下で情報を処理し、最適度の高い「解(当てはまりのよい関数や変数)」を探索するプログラムです。プログラムは「情報処理」には優れていますので、多くの領域でAIがヒトを凌駕する成果を出したと話題になりますが、その前工程としてゲームのルールや到達点(問題とも呼びます)を考えること、後工程として与えられた枠組みから外れたものの処理を考えることなどは、まだヒトの領域です。また、AIは当てはまりのよい答えを探すことは得意ですが、「それがなぜよいのか」を考えることもできません。ですから、AIがなんでもやってくれる、という世界はまだ実現しておらず、つくったAIにどんな情報やどんな問題を与えるか、得られた結果から次にどういう行動を取っていくべきかを導き出すことは、まだヒトが考えてゆかなければなりません。

Q3.今あるデータで新しい価値創出ができるのですか?

 いくつかの条件下であれば、できる可能性はあります。まず、データがあまり使われていないこと。使われていないのであれば、そのデータの「新しい」使い道を考えることで新しい価値につなげられる可能性はあります。それなりに使われている場合、そこから新しい価値が生み出せるかは次の条件、新しい使い方を考えられる人材がいるか、にかかってきます。

 Q2で述べたように、どのようにデータを使い、どのような意味を出すかは、いまだにヒトが知恵を絞る必要がある領域ですので、ここに適任者がいれば新しい価値は生み出しやすくなります。適任者がいない場合は既に商品化されているものから自社に合いそうな(新たな価値を生んでくれそうな)ものを選択導入することになりますが、その時には、今あるデータがその商品に合致する形になっているか、が条件となります。

 API連携などで「既存データをそのまま使えます」とうたう商品は多いですが、例えば全角/半角などの表記ゆらぎが無いか、部署や組織で定義がバラバラの運用がなされていないか、分析に必要なデータ量がそろっているかなど、意外とクリアすべき条件も多いため、「今あるデータ」はあきらめて「これからそろえる」選択をする企業も多く見られるのが実情です。