米国のエネルギー長官、スティーブン・チューは精力的な男で、自分で率先して手を動かして仕事に目鼻をつけていきます。昔一緒に仕事をしたことがありますが、よくできる人物で、1997年のノーベル物理学賞受賞者の、本物のプロでもあります。
右の写真、腕まくりをして青年のように見えますが、これで60歳。いまは63歳と思いますが、我が国の名誉教授諸兄が完璧に茹で上がった風情のが多いのと、仮に好対照と言わなくてもおのずと知れるものがあると思います。
ちなみに今見てみたら、以前大学でよくお見かけした班目春樹さん*1とスティーヴンは1948年生まれで同い年でした。
スティーブンは物理の道具をゲノムなど生命科学に転用する端緒を開きました。そういう幅広の視点から、現在の福島の事態にも縦横に試算を発表しています。
日本国内とずいぶん空気が違うのは、まあ後々の補償など心配して、などもあるでしょうが、基本的に文系官僚がシナリオを書いて、専門家先生にOKを取ったことにするという日本のテクノクラシーのベースが、緊急事態に即応していない表れと思います。
企業であればこのまま放置すれば左前一直線確定という気がします。
放射能と健康被害:確定的影響と確率的影響
さて、以下では「人間の安全」に関わる基礎を確認しましょう。私たち人間が放射能を浴びると、どのような影響が出るかを、整理しておきます。
放射能とは、目に見えない妖怪などではなく、ヘリウム原子核(アルファ線)や電子線(ベータ線)、威力の強い光線(ガンマ線)など、私たち人間の体を形作っているのと同じ小さなちいさな材料が、強い勢いでぶつかって来るものでした。
こうした小さな部品によるアタックは、私たち人間の「器官」や「細胞」にダメージを与えます。例えば、高濃度の放射性物質が確認された水に足をつけて作業していた人は「ベータ線熱傷」という火傷のような症状になりました。
私たちは、熱いやかんに誤って触ってしまったり、高温の水蒸気が当たったりすると火傷を負います。また、夏に日焼けしすぎると、皮膚が水ぶくれになったりもしますね。
日焼けの方は、太陽の光の中に含まれる紫外線が、私たちの細胞をアタックすることで起きる、やはり火傷に似た症状です。
*1:班目春樹氏=原子力安全委員会委員長
