「直ちに武漢全体を閉鎖すべき」

 それから、病院による「発症数の隠蔽」はないとしても、「微信」(WeChat)や「微博」(中国版Twitter)などの市民の書き込みへの「封鎖」は、猛威を振るうだろう。中国当局としては、「延べ30億人の民族大移動」が起こるこの2週間に、中国国内で混乱が起こることは避けたいからだ。

 というわけで、インターネットやSNS上に、コロナウイルスの情報を個人がアップするたびに、それが「消去される」というイタチごっこが続いている。

 21日には、武漢市の医師が、次のような意味深のメッセージをアップさせた。

<私は現在、もう2週間も残業づけの日々を送っている。昨日からようやく、世論は少し緊張しだした。だがわれわれが了解している状況は、一般の人々が最悪の事態と考えているものよりも、さらに深刻なのだ。

 鐘南山院士はメディアで、比較的穏当に述べた(1月20日に、かつてSARSと戦った元広州病院長の国家衛生健康委員会・鐘南山院士、84歳が、中央広播電視総体のインタビューに答えた)。だが彼は、武漢に視察に来た後、『直ちに武漢全体を封鎖すべきだ』という意見を述べたのだ。この意見を国務院は否決してしまった。

 私は毎日、大量の発症者と思しき患者を診察している。だが患者の数が多すぎて、とても収容しきれない。何せ隔離病棟は2棟しかないのだ。加えて、医療スタッフの一部も感染し、戦線離脱となってしまったが、その代役もいない。

 今回の新型コロナウイルスの特徴は、2003年のSARSに較べて潜伏期間が長いことだ。平均で9日間もある。しかも微熱だったり、発熱しない患者もいる(私は自分が診察している通りのことを話している)。

 武漢の人口(約1100万人)や、交通の要衝であることを考慮すると、すでに中国全土の都市にあまねく、患者は広がっているはずだ。それを報道するかしないかという問題だ。

 私の個人的な感触では、実際の感染規模は、2003年のSARSをすでに超えている。致死率のデータも曖昧になってしまっているようだ。いまは病毒が、さらに突然変異しないことを願うばかりだ>

 以上である。この現場の医師の「告白」を読む限り、やはり事態は深刻なのである。

 しかし、1月19日から21日まで南部の雲南省を視察中の習近平主席は、21日の中央広播電視総局のニュースで、雲南省の市民に向かって呼びかけた。

「正月前のわが国は、実に生気勃々としている!」

 果たして、武漢市の医師が訴えるような深刻な現実をきちんと直視しているのだろうか。