報告会で一緒に挨拶をした山内さんの長女も、当時の嘘ばかりの報道には家族皆が大変苦しめられたと、苦しい胸の内を明かしました。

 また、弁護士からは、山内事件に関する偏った報道の具体的な内容も一部紹介されました。

 たとえば、あるテレビ局は山内さんの自宅マンションで近隣住民に取材をし、「子どもが泣き叫ぶ声が聞こえていた」というコメントをとって、それを放送したそうです。

 しかし、山内さんは次女の自宅で赤ちゃんの面倒を見ていたのです。つまり、山内さんの自宅には赤ちゃんがいなかったにもかかわらず、全く無関係のコメントを、さも、虐待があったかのような印象付けのために挿入されていたというのです。

 さらに、警察からの断片的な捜査情報も曲解して使われていたといいます。

 ある番組ではニュースのテロップに、山内さんの供述内容として、『(亡くなった子は)私になついていなかった。もう一人の孫の方が可愛かった』と流され、恐ろしい事件だとコメントされたそうです。

 しかし、この件が起こったとき、お孫さんはまだ生後2カ月の赤ちゃんです。なつくとかなつかないとか、そういう月齢ではないはずです。にもかかわらず、一部を切り取ったような話の内容が編集され、一方的に流出していたのです。

無罪を勝ち取っても消えぬ過去の実名報道

「孫の顔を見るのが私の生きがいです。本当に孫がかわいくて、仕方ないんです」

 笑顔でそう語る山内さん。しかし、ご本人、そしてご家族にとって、無罪を勝ち取るまでの3年半という歳月は、どれほど理不尽で、苦しい時間だったことでしょう。

 無罪判決が確定してからは、ネット上での悪意に満ちたコメントの書き込みもほぼなくなり、現在は逆に、捜査機関や医療機関、報道に対するバッシングが大半を占めています。逆に、「報道の仕方ひとつでそこまで変わるのかということを実感しました」弁護士はそうコメントしていました。

 とはいえ、今でも山内さんの名前を検索すると、逮捕当時の一方的な報道がいくつもヒットします。それを消すことは、将来的にもほぼ不可能なのです。

 ひとつの家族の中に、被害者と加害者、そして遺族が混在しているこうした「事件」では、捜査機関はもちろん、報道にも細心の配慮が求められます。

 万一、それが「事件」でなかったとき、実名報道による被害に対して、責任を取ることができるのでしょうか・・・。

 否認事件の初期報道に触れるたびに、こうした家族を二度と生んでほしくないと強く思うのです。