東京拘置所を出るカルロス・ゴーン被告(2019年4月資料写真、写真:ロイター/アフロ)

(酒井 吉廣:中部大学経営情報学部教授)

 昨年(2019年)12月30日、日産自動車前会長で保釈中のカルロス・ゴーン被告が「不公平さと政治的な迫害から解放されるため日本を脱出した」とレバノンで発表した。スパイ映画さながらの脱出劇は世界に衝撃を与えている。

 ゴーン被告がレバノンで述べた脱出理由は逮捕後の2019年4月9日に発表したビデオメッセージの主張と同じである。また、10月22日にサルコジ元フランス大統領がゴーン被告に在日フランス大使館で面談、20人以上のフランス議会議員が公正な裁判を受けさせるべきだとの署名を在日フランス大使館経由で日本政府に提出した。12月20日に鈴木馨祐・外務副大臣がレバノン訪問した際にも、レバノン大統領がレバノンへの送還を申し入れていたことが明らかになっている。ゴーン被告が行動に出る機は熟していたのだ。

 世界の注目は以下の2つに集まっている。まず、ゴーン被告が脱出した目的と現在進行中の裁判への対応、および具体的な日本脱出方法(レバノン入国方法)だ。前者は1月8日に同被告が記者会見するという情報が浮上しており、近いうちに全体像が明らかになるだろう。

 一方、後者は東京地検特捜部(以下、特捜部)と警察が調査を開始したが、その目的が彼自身の入管法(出入国管理及び難民認定法)違反、協力者の蔵匿・隠避罪に関係する以上、事実が簡単に明らかになるとは考えにくい。

 レバノンに加えて、日本、フランス、ブラジルといったゴーン被告の関係国、同被告が弁護団を雇い、米証券取引委員会(SEC)とは罰金を支払って和解した米国、また彼が損害賠償請求した日産子会社のあるオランダ、レバノンに対する主要援助国でルノー・日産グループの自動車生産工場として関係している英独のメディアが競って報道しており、情報が錯綜している。今後の情報も断片的なものが中心だろう。

 本稿では、現在(米東海岸時間1月2日夕方)までにわかった事実を前提に、具体的に何が起こっていて、今後をどう分析すべきかという点について犯罪学的観点から考える。

カルロス・ゴーン被告が滞在しているとみられるレバノン・ベイルートの住宅(写真:Abaca/アフロ)