田原 アメリカ側がファーウェイのCEOにサイバー攻撃をしかけていた?
山田 そうです。アメリカのNSAという情報機関がやっていたわけです。その事実は、元NSA職員のエドワード・スノーデンが暴露した内部文書の中にもはっきり書かれています。任正非をハッキングしている、なぜならあやしいから、と。
田原 アメリカは、メルケルの電話まで盗聴していたくらいだから、やろうと思ったらなんでもできる。
アメリカがファーウェイを敵視しだした理由
山田 おっしゃる通りです。そのターゲットの1人が、ファーウェイCEOの任正非さんだったわけです。
NSAが監視しはじめてから3年後の2012年、アメリカの議会が58ページのリポートを出します。「ファーウェイはあやしいので、アメリカの民間企業は同社製品を使うのをやめましょう」という趣旨のレポートです。
その流れの中で2014年には政府が、政府機関の入札からファーウェイを外すことを決めています。
こんな状況ですから、任正非さんの娘がカナダで逮捕されたときに、「ファーウェイは本当に情報を盗んでいたのか」なんていう議論が日本で起こりましたが、アメリカではむしろ盗むのが当たり前という捉え方です。
田原 そんなに以前からファーウェイをマークしていたのに、なぜ去年の暮れになって、突然、任正非さんの娘であるファーウェイのCFOを逮捕したんですか。
山田 2015年に習近平国家主席が「中国製造2025」というのを打ち出しましたが、これがアメリカを強く刺激しました。
田原 2025年に世界の製造強国の仲間入りをして、2049年には経済的にも軍事的にも世界の先頭に立つという長期戦略ですね。
山田 はい。「世界の工場」から先進技術国になるというこの計画にアメリカは焦りを強くした。さらに、われわれがいまモバイル通信で利用している4Gという通信システムが、まもなく、数段速い5Gというシステムに移行します。現在世界における通信インフラのシェアを見ると、ファーウェイがあまりにも大きいんですね。ファーウェイだけでおよそ3割、その他の中国企業を加えると4割くらいになるんですね。これが5Gにつながっていくわけです。
田原 アメリカの企業をはるかに超えているわけ?
山田 超えているというか、その他はエリクソンやノキアといった欧州の会社と、韓国のサムスンくらいで、そもそもアメリカの企業は食い込んでいません。それでも、この基幹インフラをファーウェイのような中国企業に握られるのは痛すぎる。ファーウェイ製の基地局にはファーウェイは自由にアクセスできるということですから、その基地局を通じた通信のやり取りは、全てファーウェイに筒抜けになる可能性だってある。それをアメリカは警戒し始めていたわけです。だから昨年8月に成立した、10月から始まる会計年度のための国防権限法でファーウェイなど中国企業5社を政府調達の対象外とする措置をとって中国を封じ込めようとしていた矢先に、任正非さんの娘・孟晩舟さんがカナダに立ち寄った。そこでアメリカ政府の要請によりカナダが逮捕したわけですね。後で明らかになりましたが、孟晩舟さんには、8月の時点で逮捕状が出されていました。
田原 ただ、6月の大阪G20のとき、習近平と会ったトランプは、それまで一切やめると言っていたファーウェイとの取引を緩めましたよね。なぜトランプは緩めたんですか。
山田 ここにアップルのタブレット端末iPadがありますが、いくつも特殊なネジがついていますね。ネジならどこの会社の製品を使っても、タブレットから情報を盗まれる危険性はゼロです。だったらそのくらいは中国のものでもいいだろう、という程度の緩和でしかありません。
田原 そうなんですか。僕はてっきり、アメリカの企業から「ファーウェイと取引停止したら困る」という要請があって、それでトランプが緩めたんだと思っていた。
山田 そういう要望があるのは事実です。それでトランプは民間企業との取引停止には一部猶予の期間を設けていて、中国との駆け引きで、その猶予期間を2度延長しています。もちろん中国政府やファーウェイは反発していますが。
(続きはこちら)TOKYO2020、日本はサイバー攻撃の的になる
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